月刊 Keidanren 2001年5月号 巻頭言

ジャパニーズ・スタンダードを求めて

日枝共同委員長 日枝 久
(ひえだ ひさし)

経団連国際協力委員会共同委員長
フジテレビジョン社長

 「礼節、勇気、思いやり、品格」。ブッシュ大統領が就任演説で強調した事柄は、他ならぬこの日本に固有の精神的美徳であったはずだ。

 そこかしこに閉塞感が漂う日本の現状を見るにつけ、思い出すのは長らくルックイースト政策をとってきたマレーシアの親日派有力者の言葉の重みである。

 「独立後のわが国が、欧米諸国ではなく日本をお手本に選んだことは疑う余地なく正しいことでした。ところが、やがて日本はその長所であった、勤勉、調和、礼儀などの美徳を失い、終身雇用制度など日本独自のシステムまで自ら放棄し、もの作りを軽視して拝金主義に陥りました。ルックウエスト政策を選択した日本からわれわれが学ぶべきことは、残念ながらもうありません」

 グローバル・スタンダードという言葉はいつから大手を振ってまかり通るようになったのだろう。グローバルとはいうものの内実はアメリカン・スタンダードである。それが悪いと言うつもりはない。アメリカは日本にとって最良の友人でありパートナーだ。アメリカン・スタンダードにはわれわれ日本企業が学ぶべき点が多々ある。

 しかし、日本はあまりにも無批判、無原則に「日本的なるもの」を排除してきたのではないだろうか。経済や経営に限らず、すべての面にわたり、日本が国際社会で尊敬され、存在感を示す必要に迫られているだけに、日本人の心から「日本的なるもの」が失われつつある現状を何とかしない限り、この国の将来は深刻である。

 21世紀、われわれは過去の負の遺産を清算し、政治、経済、社会などあらゆるレベルで世界に通用するジャパニーズ・スタンダードを創造することによって、再び活力ある日本をよみがえらせるべく努力しなければならない。日本人は学び、創造する能力を十分に備えた、国際的にもきわめて優秀な国民であるという自信を取り戻す必要があるのではないか。


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