月刊 Keidanren 2001年8月号 巻頭言

変革を牽引する強いリーダーシップを

北城共同委員長 北城恪太郎
(きたしろ かくたろう)

経団連産業技術委員会共同委員長
日本アイ・ビー・エム会長

 これまで注目を集めてきたネット・ベンチャー企業群の株価低迷や経営不振が報道されるにつれ「ネットバブルの崩壊」が叫ばれ、e−ビジネスそのものへの疑問まで聞かれるようになった。しかし、利益を上げられない企業の株価が高かったことが異常なのであって、e−ビジネスの世界でも経営の原理原則が変わってしまったわけではない。斬新で特徴のある新製品や卓越した製品・サービスを提供できる企業、あるいはコスト競争力の強い製品・サービスを提供できる企業は成功を収めている。

 一時の熱狂は、e−ビジネスの健全な発展のための通過点にすぎない。新興企業群が「目覚まし時計」を鳴らした結果、既存企業がe−ビジネスの重要性に気づき、新規市場の開拓だけでなく、社内の効率化や調達先を含めたコスト削減、経営スピードの向上などを図るために積極的かつ地に足をつけて取り組み始めた。そして、猛烈な勢いで変化する経営環境で勝ち残るため、自社の強みを見極めて戦略を立案し、新しい時代に適合した企業体質への変革を牽引していくことこそ経営者の役割なのである。

 かつて経済低迷期を迎えた米国企業は、日本をはじめとする諸外国の例に謙虚に学び、痛みに耐えて構造改革を着実に実行した。その結果、米国経済は現在の強さの基盤を固め、見事に復活を遂げてきた。日本にあっても、企業が変化を恐れて前進しなければ、日本経済の再活性化はありえない。

 今、日本全体に改革の気運があふれている。明治、戦後に続くといわれる大変革がようやく動き出した、といった感がある。企業も、過去の成功体験やしがらみに足をとられていては、世界の舞台で勝負できない。日本経済復活のために今期待されているのは、たとえ短期的には痛みを伴う改革であっても、必要なことは実行していく経営者の強力なリーダーシップであると思う。


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