月刊 Keidanren 2001年9月号 巻頭言

人材の時代

森川副議長 森川敏雄
(もりかわ としお)

経団連評議員会副議長
三井住友銀行相談役

 わが国経済社会の停滞がいわれて久しい。その背景にはさまざまな要因があろうが、最近思うのは、「人材」の問題である。

 生産機能がアジアなど海外へ移転し、先進国における価値創造の対象が「ハード」から「ソフト」あるいは「ナレッジ」へと移行しつつある中で、国や企業の競争力における「人材」の重要性はますます高まっている。時代が「ウォー・フォー・タレント(人材の獲得競争)」へと進みつつある中、有為な人材を育み、あるいは獲得することは、国や企業にとって大きな課題である。

 そのために重要なのは、第一に、人材の登用や能力の発揮を可能にする開かれた雇用システムと成果報酬の仕組みである。わが国でも、中途採用の増加や成果主義の導入など雇用体系に変化が見られるが、米国に比べると雇用システムは未だに閉鎖的・硬直的であると言わざるをえない。もとより日本に人材が乏しいとは思わないが、閉鎖的な雇用システムの下で人材が埋没しやすいことも事実である。

 第二に、国や個々の企業、大学が、有為な人材を引き付ける魅力ある存在でなければならない。企業でいえば、会社が描く経営ビジョンや理念、会社の成長性、革新性、あるいは社会的評価といったものが、働く場所としてのプラス・アルファの魅力を左右する。そして、これらによる人材の集積が組織の魅力を一層高め、さらに人材から人材への連鎖が広がっていく。このことは、国や大学についても同じであろう。

 最後は、教育・人材育成の問題である。教育についていえば、ある調査によると、日本の子どもは、米国や中国と比べて、全般的に関心が内向きで、積極性にも乏しいという。新しい知の創出、変革へのリーダーシップ、グローバルなコミュニケーション能力が求められる今日、この状況は心許ない。真剣に教育システムのあり方を問い直す時期にきていると思う。


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