月刊 Keidanren 2002年 5月号 巻頭言

ブラジル、チリ、アルゼンチンを訪問して

岸副会長 岸  曉
(きし さとる)

経団連副会長
東京三菱銀行会長

 さる二月下旬に、ブラジル、チリ、アルゼンチン三カ国を訪問する機会に恵まれた。経団連中南米地域委員長として、これらの国に赴任されている大使の方々から、これまでもいろいろお話を伺うチャンスがあったが、今般、自らの目でこれらの国々の現状を垣間見ることができたので、若干感想を述べてみたい。

 最初にブラジルを訪問した。かつては、年間インフレ率2000%超というハイパーインフレのもとで混乱の極みにあったブラジル経済であるが、ここ数年インフレは一ケタ台に収まっており隔世の感がある。これは現カルドーゾ大統領が実施したレアル・プラン成功の証であろう。サンパウロとリオデジャネイロでの、ブラジルを代表する企業や日系企業のトップの方々との懇談を通じ、ブラジル経済は非常にダイナミックでかつポテンシャルは想像以上に高いのではないかという印象をもった。

 次に訪問したチリは、経済規模も比較的小さく、堅実でまじめなお国柄という印象であった。首都サンチャゴの街は、整然と区画された家々に花咲き乱れ、たいへん美しい街であった。運良くお会いできた親日家の中央銀行総裁は、インフレをコントロールしたその手腕が内外でかなり高く評価されている方であるが、当面のチリ経済は、アルゼンチン経済の影響もさほど受けず、安定的な成長が期待されるとのことであった。

 最後に訪問したアルゼンチンの首都ブエノスアイレスは、南米のパリと言われるだけあって、ヨーロッパの街並みを思わせる落ち着いた佇まいであった。しかし、実際街中で一群の人々がなべかまを叩いて抗議活動を行っているのを見るにつけ、この国の混乱収拾にはまだまだ時間がかかるような気がした。また、地方財政を40%も削減しなければならないくらい財政が逼迫している国には不相応な、輝くばかりに改装された空港が妙に印象的であった。

 最後に、今回お会いした日系企業の多くの方から、より多くの財界の方に南米の現実を自らの目でご覧いただきたい、というメッセージを一再ならず頂戴したことを付言しておきたい。


日本語のホームページへ