月刊・経済Trend 2002年 8月号 巻頭言

活力溢れる経済社会への視点

森下副会長 森下洋一
(もりした よういち)

日本経団連副会長
松下電器産業会長

 われわれは今、「活力溢れる日本」の構築を目指して、これまでの発展を導いた経済社会システムの構造改革に取り組んでいる。これは言わば、“日本の将来を築く大事業”であって、高らかな理想と維新の気概を持って改革をやり遂げなければならないとの思いを強くしている。

 日本は過去の成功体験に固執せず、世界経済、社会の変化の中で改めるべきものは改める素直な視点が必要だろう。一方で、日本の強さを忘れてはならない。客観的にも日本の経済ポテンシャルは高い。また、世界に誇れる質の高い人材、知恵がある。そして、これらの強さを引き出してきた「日本の良さ」が根底にある。私は、この「日本の良さ」の本質は「人を活かす」ことにあると考えている。

 二十世紀を振り返れば、日本は、欧米において発達した大量生産方式をさらに発展させ、“世界の寵児”となって躍進を遂げた。細密に分業化され、ともすると人が単なるラインの歯車になりかねない大量生産方式において、日本はQC活動や提案活動等を通じて、個人の創意工夫を最大限に引き出していった。この独自の創造性が結果的に欧米との大きな差となって現れたのである。

 多品種変量でフレキシブルな生産体制が求められる今日では、個人が複数の工程を担当する主として創意工夫・独創性を自らの意思で発揮できる「セル生産方式」へと移行している。大量生産時代とは異なる「人を活かす」方法で革新を遂げようとしているのである。

 人は、任されることでやり甲斐、生き甲斐を感じ、さらに切磋琢磨する環境と自発的な創意工夫ができるとき最も力を発揮することをわれわれは知っている。そして、個人の力、ひいては民間の力を最大限に発揮させる社会こそが、活力溢れる社会に他ならない。日本の構造改革の本質はこの点にあると考えている。本質を見据え、日本の良さを活かし続けることができれば日本の将来は明るい。その将来は、われわれ一人一人の行動にかかっている。


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