月刊・経済Trend 2003年4月号 巻頭言

コーポレート・ガバナンス

出井副議長 出井伸之
(いでい のぶゆき)

日本経団連評議員会副議長
ソニー会長兼CEO

コーポレート・ガバナンスの手法に、グローバル・スタンダードなるものはない。取締役会の組成だけを取り上げても、ほぼ社内取締役で占められる日本に比べ、米国においては社内取締役が一人あるいは数人で、残りは社外取締役である方が良いと考えられている。一方ドイツのように、取締役の任免権をもつ監査役会に従業員代表を加える国もある。調べてみると、それぞれの国にそのような組成になった歴史的背景が存在する。コーポレート・ガバナンスは、その国の経済・社会システムの設計思想に関わるものであり、日本のコーポレート・ガバナンスに関しても、日本の歴史や法律、文化的背景を無視して議論することはできない。

また、会社の事業内容や規模、歴史、社風によってもガバナンスの手法が違うことは当然である。上場企業と非上場企業では手法が違って当然であるし、自国だけで事業している会社と、複数国あるいはグローバルに事業を展開している会社でも違うはずだ。したがって事業内容や規模、時代環境の変化などに合わせ、ガバナンスの手法を変えていく必要がある。

この4月1日から、日本において改正商法が施行され、各会社は「従来通り」「重要財産等委員会の設置」「委員会等設置会社」の三つの選択肢から、新しいガバナンスの手法を選ぶこととなった。しかしここで、三つの選択肢の得失を議論することが重要なのではない。経営機構に関する商法の抜本的改正は約50年振りであり、法改正に携わっている専門家からも、改正法に関して幅広く論点が提起され議論が重ねられることは必要であり歓迎したいという声が聞こえてくる。

不祥事を未然に回避し、株主、投資家、従業員、経営者など全てのステークホルダーの利害調整を行い、企業価値を高めていくためには、コーポレート・ガバナンスの議論に終点はない。不断の議論・検討を続けていくことが肝要であり、自社に最適のガバナンス方法となるよう、法律の範囲内で独自の工夫を加え実践することが経営者に課せられた仕事である。またどんなに優れた仕組みであっても、その有効性を最後に左右するのは経営者の倫理観、志といった心の問題に尽きることも決して忘れてはならないだろう。


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