月刊・経済Trend 2003年11月号 巻頭言

日本の医療サービスについて

秋草副議長 秋草直之
(あきくさ なおゆき)

日本経団連評議員会副議長
富士通会長

皆様のご家庭での関心事は何であろうか、と思いを巡らせると、多くの方が「健康や教育」にたどり着くのではないだろうか。また「健康」といえば、私を含めて、多くの方が「医療」というキーワードに行き着くであろう。この点、本年提唱された「e-Japan II」においても、先導的に取り組むべき項目の筆頭として「医療分野」が取り上げられている。

構造改革特区や規制改革などの場でも「医療分野」に関わる議論が始まっているが、少子高齢化社会への対応という大命題に向けた医療分野での構造改革、特に、国民にとっての医療サービスがどうあるべきか、という観点からの前向きな議論の展開に大いに期待したいところである。

たとえば、米国では1990年代に、患者へのサービスをシームレスに提供するため、診療所や介護施設なども含めた異種にわたる医療機関の垂直統合が進んだ。組織としての母体である非営利法人を核として、傘下にて周辺サービスを事業化させたものである。そこで得られた利益を地域の医療に還元するモデルを構築したことで、生活に根ざした地域医療サービス全体の質の向上を果たしている。わが国においても、これらを参考に、医療機関が他の医療機関と連携したり、関連組織においてサービスの充実を図るなど、今後、さまざまな展開が考えられると思う。

日本の医療分野の将来について考える際には、「サービスの内容」と「その質」の観点が重要である。日本は世界一の長寿国だから日本の医療分野のレベルは高いという意見もよく耳にするが、その一方で、最近、医療機関のランキングがよく話題になっている。これは国民がより優れた医療機関にかかりたい、質の高いサービスの提供を受けたい、という意識の表れではないか。このような時流のなかで、医療分野についても、わが国が国際的に見てどのくらいのレベルに達しているのかをよく評価したうえで、更なる向上を目指すべきであろう。


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