月刊・経済Trend 2004年7月号 巻頭言

21世紀の航空宇宙産業の展望

西岡副会長 西岡 喬
(にしおか たかし)

日本経団連副会長
三菱重工業会長

主翼に複合材を用い画期的な運航費低減を狙ったボーイング7E7の開発が着手され、わが国航空機・エンジン関連企業も参画が期待されている。また経済産業省による民間小型ジェット機の研究も進められつつある。

わが国はYS−11以降、旅客機の自主開発から遠ざかっていたが、これらのプロジェクトは航空宇宙産業の大きな発展の契機となる可能性がある。欧州はもとより、カナダ、ブラジル、中国などでも航空宇宙産業は大きく成長・発展しており、戦略産業として集中的に育成し、伸ばすべき分野と考えられている。技術立国を目指すわが国にとっても、複雑・巨大なシステムをとりまとめる航空宇宙開発の技術波及効果は大きく、戦略的な取り組みが求められる。

また航空宇宙産業は安全保障産業としての意義も大きい。世界では米・英などによる次世代戦闘機JSF(ジョイント・ストライク・ファイター)の共同開発が進み9カ国が参加している。JSFの開発では、機体・エンジンはもとよりその開発手法でも最先端技術が採用され、各国の参加企業はウェブ上で設計情報を共有し、リアルタイムで共同開発を進めている。残念ながら、わが国は輸出管理政策上の制約もあり、開発に参加できていない。

防衛関連の航空宇宙技術は米国が先行しており、ITを中心にした技術革新は急速である。わが国もこれまでの技術鎖国状態を脱し、世界レベルの交流を促進し、技術力を発展させることが必要で、これが最終的にわが国の安全保障につながるものと信ずる。

宇宙分野でもH−IIAロケットの打ち上げ再開に向け、信頼性向上努力が続けられており、競争力の強化により世界の衛星打ち上げ市場への参入を期待している。

民間旅客需要の低迷、防衛予算の伸び悩みなど厳しい環境下ではあるが、最先端技術力を追求している航空宇宙産業の発展は、その技術力による産業波及効果を通じて将来のわが国経済の発展の必須項目として大きく位置付けられている。


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