月刊・経済Trend 2005年10月号 巻頭言

改革の手綱を緩めるな

御手洗副会長 御手洗冨士夫
(みたらい ふじお)

日本経団連副会長
キヤノン社長

小泉内閣が最重要課題としていた郵政民営化関連法案が参議院で否決され、その結果、小泉首相は衆議院を解散し、総選挙を行う道を選んだ。選挙結果についてはご承知のとおり小泉自民党の圧倒的勝利、与党で全議席の三分の二確保という形で決着がついた。国民のほとんどが小泉首相の改革路線について賛意を示し、郵政民営化法案の成立が確実な情勢になった。そこで改めて郵政民営化の意義について考えてみた。

郵政民営化自体が国にとってあまり重要な問題ではないという見方もある。しかし、本当に先送りしてよい問題だっただろうか。日本は今後、他の国が経験したこともない速いスピードで少子高齢化の道を歩んでいく。そのためには財政改革はじめ税制改革、社会保障改革と矢継ぎ早に国の基本構造の改革を行っていかなければならない。郵政民営化はその前提となる「小さな政府づくり」の突破口になると思う。

郵政公社は約38万人もの公務員を抱えていると聞く。この数は警察官や自衛官のそれぞれ約24万人よりもはるかに多い人数を擁している。国家公務員全体の約3割も占めている。彼らが民間人になれば日本経済の発展にとっても大きな原動力になることは間違いない。また資金的な面から見ても郵政公社は政府保証で330兆円もの金を個人から集め、国債等を買って公的部門に資金を流しつづけている。こうした資金を民間で預かればもっと効率的に運用することができるだろう。「民でできることは民に任せる」ことが構造改革の基本である。

郵政が民営化すると離れ小島など僻地へのサービスが悪くなるとか、赤字が拡大する、といった意見がある。しかし、これほど民間を軽く見た「官尊民卑」の発言はないのではないか。民間に任せればもっとサービスはよくなり、必死になって黒字を出すよう努力するだろう。これは国鉄やNTTなど過去に民営化された国営企業の先行例を見れば明らかである。また諸外国の例を見ても民営化は世界的な潮流になっている。

官業をできるだけ民間に移行し、政府はできるだけコストを抑えてもらいたい。今後の少子高齢化に備えて構造改革の手綱を緩めてはいけない。


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