月刊・経済Trend 2006年8月号 巻頭言

自助の精神

西室議長 西室泰三
(にしむろ たいぞう)

日本経団連評議員会議長
東芝相談役

自助という言葉を生涯のモットーとした経営者がいた。

日本電気の中興の祖といわれ、10年ほど前に89歳で他界された小林宏治氏である。山間の寒村に生まれ、苦学力行、技術者として一流となったのみならず、国際的視野と行動を兼ね備えた経営者として名を留めている。没後1年に出版された850頁にのぼる「自助」と題された小林宏治追想録にも「自助の精神〜セルフヘルプ〜が人間と社会の発展の原動力であることを理解せよ」との言葉が記されている。

社会保障は国民の安心・安全のために重要な政策であるが、根本にあるべきは自助の精神であろう。ところが、国・地方の財政の健全化のために増大し続ける公費の抑制の必要性は認めつつも「公助の率が少しでも減少したら、社会保障そのものの質が悪くなるのではないか」という議論になりがちだ。しかし、自助の精神を忘れ、公助頼みというのではあまりに悲しすぎないか。自助が基本にあり、お互いに助け合う共助がその次にあり、そして公助があるのではないか、と思う。

「保険料や税財源に限りがある中では、公的医療保険制度は、相互扶助と『個人の自助』を基本とし、過剰・重複する部分を効率化するとともに、給付内容を、重度の病気やけがで生命や生活に支障がある人への医療サービスに重点化する必要がある」。昨年10月、日本経団連は医療の問題について、このように提言した。サービスレベルを下げずに公的な医療費を抑制するには、抑制分をいかに自助や共助でカバーするか、という工夫が大事である。

自助や共助の部分を増やすことで全体のパイを大きくし、競争も導入し、質も向上させる。社会保障制度の議論において、今後は、そういう工夫・発想も必須であろう。

社会保障改革に限らず、自助の精神をもう一度とり戻すことを真剣に考えていきたい。


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