月刊・経済Trend 2006年10月号 巻頭言

企業の良心の発露

中村副議長 中村邦夫
(なかむら くにお)

日本経団連評議員会副議長
松下電器産業会長

自戒・反省をこめて、最近、「良心的」という言葉があまり聞かれなくなったように感じる。「良心的な製品」「良心的なサービス」……。企業がお客様からこの言葉をいただけるとすれば、製品、サービス、あるいは社員の行動に対して、高い信頼感をこめて寄せられる最高の賛辞ではないか。

したがって、企業としての「良心の発露」の姿は、まずは本業で、お客様本位に徹して、高品質で価値ある製品・サービスを提供していくことにある。関連して、あってはならないことだが、品質問題や不祥事が発生した場合の、適切、俊敏、そして何より誠実な対応である。加えて、社会的存在である企業は、より良き社会づくりに向けて、企業市民としての責務、使命を積極的に果たしていかねばならない。多様な社会貢献活動もそうだが、たとえば具体的な例では、スポンサーとしての姿勢も、とても重要だと考えている。最近はバラエティやお笑い番組があまりに多い。そうした番組も、もちろん必要だ。しかし、そればかりでは決して人間性の涵養につながらないのではないか。提供する側としても内容をより吟味していくことの必要性を感じている。これも良心の発露のひとつの形だと思う。

昨今、いたいけな子どもたちが犠牲になる卑劣な犯罪や虐待が多発しているし、企業を巡ってもその存在意義、経営者や社員の倫理観を疑うような出来事が相次いでいる。公共空間でのマナーの悪さも目に余る。さまざまな現象を見るにつけ、日本人のこころの荒廃を感じずにはいられない。「勤勉」「忍耐」「質実」「礼節」「互助」「公徳心」「子どもは社会の宝」「子は(かすがい)」等々、かつて日本人が持っていた尊い価値観や美風が失われてきている。それをなんとか社会全体で取り戻していきたい。そのために、企業としても、その良心の発露の方法を真剣に考え、具体的な行動に結び付けていくことが強く求められているように思う。「良心的」と評される企業が増えるほど、社会はきっと良い方向に進むと信じている。


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