月刊・経済Trend 2008年3月号 巻頭言

科学技術立国を担う次世代を育てるために

中鉢副議長 中鉢良治
(ちゅうばち りょうじ)

日本経団連評議員会副議長
ソニー社長

昨年12月、OECDから世界57カ国の15歳を対象にした学習到達度調査の結果が発表された。日本の高校生は、「科学的応用力」6位(前回2003年2位)など全科目で前回より順位が後退した。特に深刻なのは、科学への興味が希薄で「科学に関連する職業に就きたい」と考える生徒が諸外国の平均25%に対し、わずか8%と極端に少なかったことだ。科学技術創造立国を標榜する日本としては、重く受け止めなければならない結果である。

1946年、ソニーの創立者の一人、井深大は、設立趣意書の中で「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」とともに、「国民科学知識の実際的啓蒙活動」を目標に掲げた。そして、日本の将来の発展を支える子どもたちが、科学に関心を持ち好きになるには、小中学校における理科教育が最も重要と考え、1959年に「ソニー理科教育振興資金」を設立し、その教育支援事業は、今に続いている。戦後の荒廃の中、資源の乏しい日本にとって、科学、技術を中心とした国づくりを進めるという目標は、国力を回復し国際社会に再び認められるための希望でもあった。

翻って今日、世界的にはグローバル経済の進展と新しい国々の台頭が経済の流れを変え、また、国内的には少子高齢化と対峙する中で、日本の国際競争力の向上は喫緊の課題となっている。21世紀の日本にとって、科学力、技術力こそが競争力の根幹であり、それを担う人材の育成が、従前にも増して重要となっていることを、再認識する必要がある。そして、科学を理解し、好奇心や創造力を養い、モノを生み出すことに喜びと充実感を感じる子どもたちを育てることに、社会として真剣に取り組まなければならない。

それには、企業も教育のあり方に関心を持ち、次の社会を担う次世代の育成を企業の社会的責任と位置づけ、長期的な視点で、教育の充実に積極的に携わることが重要だ。たとえば、企業が理科教育や技術教育等で「体験の場」を提供していくことは、子どもたちに科学、技術やモノ作りの面白さを知ってもらうために効果的である。こういった「場の提供」は、既に各企業で取り組んでいることだが、さらに産業界として連携してひろげていくことが、日本の将来を支える人材育成の一助となるのではないかと考えている。


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