月刊・経済Trend 2010年2月号 巻頭言

観光の現場から、国と地域のあり方を考える

大塚副議長 大塚陸毅
(おおつか むつたけ)

日本経団連評議員会副議長
東日本旅客鉄道会長

最近、福沢諭吉が再び脚光を浴びていると聞くが、私にとっても『学問のすゝめ』は非常に感銘を受けた書の一つである。なかでも、「一身の独立なくして一国の独立なし」と説くその自立の精神は、まさに混迷を極める現代日本に強く求められている。

とりわけ、現在の社会経済システムのなかにおいて「自立」の観点が必要なのは、地域のあり方ではないだろうか。財源や権限の移譲、究極的には道州制に向けて国と地域のあり方を強力に組み替えていくことが必要である。あわせて、各地域が経済的に自立するための環境整備を真剣に進めることも重要な課題である。カンフル剤的な公共事業にいつまでも依存する体質から抜け出し、それぞれの地域に根ざした産業を育成していかなければいけない。

私は、日本経団連の観光委員長を拝命し、地域での自立に向けた創意工夫を目の当たりにするにつけ、ますますこの思いを強くしている。例えば新潟県妻有地方では、里山に350点以上におよぶ現代アートを配した「大地の芸術祭」を開催している。昨夏は50日の期間中37万人の観光客が訪れた。過疎で元気がなくなった村々が明らかに活気づいてきている。また、公害の街として有名であった秋田県小坂町は、今では産業観光の先駆け的事例である。明治以来の鉱山と歴史的町並みを見るため、年間8万人の観光客が訪れている。いずれも交通の便は必ずしも良いとは言えず、従来の観光の概念からすれば、条件が揃っているとは言い難い。しかし、地元の特性を活かし多くの観光客を呼び込む取り組みには見習うべき多くのものがある。両者に共通しているのは、従来の概念に縛られない発想力と企画力、地元住民の積極的なかかわり、自治体のバックアップである。

経済的自立に向けた解答は観光だけではない。農業の再生等、その地域に合った解答があるはずである。重要なことは、各地域で眠っている知恵を解き放ち、地元の活力に結実させていくことである。このような観点から国と地域のあり方を早急に見直し、地域が主体的に活躍できる環境を整えるべきである。


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