月刊・経済Trend 2010年6月号 巻頭言

WIN-WIN関係構築を目指す成長戦略

佐々木副会長 佐々木幹夫
(ささき みきお)

日本経団連副会長
三菱商事会長

世界経済の構造変化が注目されて久しいが、金融危機の発生により、先進国中心の世界経済というこれまでの体制は大きく揺さぶられた。経済構造や価値観を含め、従来とは様変わりした社会が広がろうとしている。企業にとっても多様なステークホルダーと対話し、社会の一員として機能を果たし、貢献することが重要となっている。

環境問題への対応もその一つである。エネルギーの効率的使用や新交通システム等を組み合わせ、環境に配慮した「スマートコミュニティー」を構築しようという試みが各国に広がっている。業種を超えた多くの企業が積極的にモデル事業に参画し、市民レベルでも環境にやさしい街づくりへの関心が高まっている。家庭での太陽光発電を促進しようとする動きも活発である。これまで電気を消費するばかりであった家庭が、太陽光パネルで発電した電気の供給者になろうとしている。サプライヤーとユーザーの関係は一義的なものではなく、多様化している。肝心なことは、すべてのステークホルダーを満足させるWIN-WIN関係を構築することである。

わが国の成長戦略は、環境分野等の新たな需要創造とアジアの成長の取り込みが重要な柱となる。中国やインド等では、所得が上昇したので自動車等の耐久消費財が売れるというばかりでなく、デリー−ムンバイ間の鉄道開発や天津における大規模な環境都市開発計画のようなインフラ開発事業ニーズも高い。これらの開発事業では、日本企業は機器納入にとどまらず、省エネや省資源等の新たな価値観につながるようなシステムの構築や人材開発も含めた参画が求められている。

多様なステークホルダーとWIN-WIN関係を構築するとの考え方は、企業レベルから国家レベルにいたるまで共通する新たな視点となる。わが国の成長戦略の策定と実行にあたっても、日本の強みを活かして世界に、そして社会に貢献するというWIN-WIN関係を築き上げることが大切である。


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