月刊・経済Trend 2011年2月号 巻頭言

新秩序への思考転換が必要

畔柳副議長 畔柳信雄
(くろやなぎ のぶお)

日本経団連評議員会副議長
三菱東京UFJ銀行会長

グローバリゼーションの加速や驚異的な新興国の経済成長は、世界経済のパワーバランスの変貌にとどまらず、国家の枠組みや経済社会の価値観に大きな影響を及ぼしている。世界市場の統合化という歴史的な局面を迎えるなか、古い常識にとらわれない、新秩序(New Order)ともいうべき思考転換が必要である。

他の生物種族に類をみない人類の驚異的繁栄の要因は、生産技術のイノベーションと分業体制だといわれる。自給自足から始まった生産技術は、分業化により飛躍的に生産効率を高め、村落共同体、都市、国家へと経済規模を広げていった。現在は、その分業が国家の枠を越え、世界市場へと拡がる過程でさまざまな課題が生じている。

分業によるイノベーションや合理的資源配分を追求する観点に立てば、国家の壁は破られるべきであるが、種族の糧やアイデンティティーを守ろうとする国家の壁は厳然と存在する。現下、ユーロで起きている複数国家集合体と地域社会の対立は、国家の壁に対するイデオロギーの葛藤とみてよいのではないか。

新しい秩序の構築には、健全な世界観のもとで「民間の自立促進」「ビジョンを持った国家・政府の存在」そして「新たな官民連携」の三つのバランスが重要である。加えて、単なるグローカリゼーションだけでなく、資源環境や貧富格差など人類的課題解決の視点を取り入れたビジネスモデル確立が人類社会の持続性・安定性を高める。

翻って、現下のわが国は、さまざまな困難に直面し、国際政治情勢に振り回されている。当面は混迷が続き、新秩序確立までの「生みの苦しみ」を覚悟する必要がある。ただ、萌芽もある。目下、議論百出の多国間経済連携は、民間の自立、国家ビジョン、官民連携のバランスを要する新たなチャレンジである。さらに、人類課題解決型イノベーションの促進は、新秩序構築のフロントランナーとして日本の国際的存在感を高める。重要なことは、大局観のもとで次なる挑戦に向けた自覚を持つことである。


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