月刊・経済Trend 2011年5月・6月合併号 巻頭言

疾風勁草のごとく

西田副会長 西田厚聰
(にしだ あつとし)

経団連副会長
東芝会長

3月11日に起きた東日本大震災により、かけがえのない多くの命が失われたことに深い悲しみを抱かざるを得ない。被災された方に心からお見舞い申しあげるとともに亡くなられた方のご冥福をお祈り申しあげる。まだ被災地では多くの行方不明者の捜索が続いており、福島第一原子力発電所への対応にも全力をあげている現状ではあるが、これからの日本の青写真を描くことは残された者の責任であると思う。

震災直後からの日本人の冷静かつ秩序だったモラルの高い姿勢が世界に与えた感銘は、国難といえるほどの今回の大震災に直面し、あらためて日本の強みが「科学・技術力」のみでなく、日本人の倫理観、道徳観の高さと忍耐力の強さにもあることを証明したように思う。それと同時に世界中からの支援の輪の拡がりから、これからの国家安全保障はこれまで以上に国際社会との連携が必須であることも再認識できた。

復興さらには日本再生へ向けて、停滞している経済活動を一日も早く回復すべく観光産業振興をはじめとする地域活性化を図るとともに、いまこそ自らの「危機意識」を持続させながら、状況変化をよく見極めたうえで機敏に対応し、自分たちも変わっていくという「応変力」をさらに高め、官民一体となってその礎を築かなければならない。

今夏の東北・関東地域の電力需給の逼迫については、企業、家庭が一体となって節電、省エネに努めるべきであるが、分散型蓄電システムの導入など、より自律性の高いエネルギー・ネットワークの再構築も必要であろう。日本は今後、国際社会と協調しつつ資源を確保し、エネルギー効率の一層の向上を図りつつ、化石燃料に再生可能エネルギーを加えたエネルギー・ミックスによる安定的なエネルギー供給体制を確保していかなければならない。その際、太陽光発電などの自然エネルギーも取り込んだスマート・コミュニティーを東北・関東の太平洋沿岸地域をモデル地域として中長期的視点からつくりあげる必要がある。

今回の大震災で東北地方の人々が、疾風のなかの勁草のごとく強くあったように、国家百年の計として優秀な人材の育成とその人材を核としたイノベーションの創出により産業構造転換を図り、真の国際競争力を21世紀の日本が獲得していくことができるものと信じている。


日本語のホームページへ