月刊・経済Trend 2011年9月号 巻頭言

多様性を尊重する

前田副議長 前田新造
(まえだ しんぞう)

経団連評議員会副議長
資生堂会長

日本企業にさらなるグローバル化が求められている。このことは以前からの課題でもあったが、東日本大震災により、内需型といわれた企業も広く海外に生産拠点を分散する、あるいは海外事業の拡大を進めるなどの動きにも拍車が掛かっている。

日本企業、あるいは日本人がグローバル化を果たしていくための要諦は、「ダイバーシティー(多様性)への対応」であろう。多様な価値観や文化、異なる個性を受け入れることが重要である。多様性を尊重するということはマーケットを構成している多様な人々のニーズを理解することにもつながり、企業の価値創造力を高めるためにも欠かせない。

しかし日本は、多様性という点では最も身近なジェンダーに関する意識や対策においても、主要国と比してまだまだ遅れているといわざるを得ない。日本は年齢別女性労働力率において「M字型カーブ(注)」の典型であり、企業の役員に占める女性比率もわずか一割強とダイバーシティーの観点では大きく後れを取っている。

また、「平均寿命」「高齢者数」その「スピード」という三点において、日本は世界一の高齢化社会であると同時に子育て環境においても厳しさが続き、少子化対策も十分な効果を発揮できておらず、人口減少とそれに伴う労働人口減といった深刻な問題を抱えている。つまり高齢化と少子化という両極への対応を同時に進める必要に迫られており、先進諸国がいまだ経験したことのない難度の高い課題に直面している。

この先、日本が活力を取り戻すためにもダイバーシティー、とりわけ女性の活躍は必須であり、政治・行政による対応と、われわれ企業が担当する領域の双方において、相当な覚悟と実行力をもって対策を進めていかねばならない。

経団連としても制度改革や財源問題の解決といった働きかけを続けていく一方で、企業も仕事と育児を両立させるための環境整備や優秀な女性社員の育成・活躍支援を通じて、価値創造力の強化と日本経済の活力向上に取り組んでいく必要があろう。

M字型カーブ:女性の労働力率が、出産・育児期の30代を中心に、一時的に落ち込む現象

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