経済くりっぷ No.5 (2002年9月24日)

8月26日/総合政策委員会企画部会(部会長 神尾 隆氏)

日本の目指すべき姿と国家理念について


総合政策委員会企画部会第3回会合を開催し、川勝平太 国際日本文化研究センター教授より、「21世紀日本の姿と国家理念」と題して説明を受けるとともに、意見交換した。

I.川勝教授説明要旨

1.文明戦略の必要性

昨年9月11日の米国同時多発テロ事件は、文明の衝突が21世紀の深刻な問題になることを示した。
日本においても、明治時代には福澤諭吉らにより文明論が積極的に語られたが、今後明確な文明戦略を立てていく必要がある。

2.価値観の力点の変遷

そこで、文明における価値を何に置くかである。価値観としては、「真に対する偽」「善に対する悪」「美に対する醜」という対立軸が存在するが、21世紀の日本文明においては、真、善を包摂した「美」が最も重要となろう。
その理由として、

  1. 西洋文明の価値は、14〜16世紀の神学による真理の追求から、18世紀の産業革命により、富の分配をめぐって何が善かという議論に移り、さらに20世紀に入ると地球環境問題に対する懸念から、価値の力点が「美」に移ってきたこと、
  2. 真や善は人がつくり出した価値であるが、地球と結びつく「美」という価値は普遍であること、
  3. 日本文化は、水に裏打ちされた「美」に価値があること、
があげられよう。

3.21世紀は水の世紀

20世紀を石炭・石油による「火の世紀」とすると、21世紀は「水の世紀」となろう。歴史を振り返ってみると、四大文明がいずれも水の問題と直面した。したがって今後、先進国と途上国の差は美しい水があるかどうかで判断される。美しい水を豊富にもつ日本の出番が必ず来る。

4.目指すべき国のかたち

尊敬を惹きつけるような日本になるためには、まず首都機能を移転するとともに、日本全国を4つの地域に分けた道州制による地方分権を行い、明治、大正、昭和、平成を通じた「東京時代」の終焉を目指す。
また、生活の55年体制の打破することが求められる。1955年以降の集合住宅の出現は、家と庭が一体となった本来の「家庭」を破壊した。製品輸入が5割を超える今日、いかに物を使うかが重要であり、そのためには、東京以外の地域を活用して生活空間を倍増し、家と庭が一体となったライフスタイルを選択できるようにすることにより、本来の「家庭」の姿を取り戻していく必要がある。
さらに、グローバルな視野で地域に根ざした「グローカロジー」な学問を発信し、学問立国を目指していくことも重要である。

II.懇談要旨

日本経団連側からは、「道州制による地方分権を行うには、各地域で国民的なコンセンサスが必要になる」等の指摘があった。

《担当:社会本部》

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