経済くりっぷ No.14 (2003年2月11日)

1月22日/中南米地域駐在大使との懇談会(司会 岸 曉 中南米地域委員会)

急速に地域統合が進む米州・中南米


外務省中南米諸国大使会議に出席するため一時帰国中の中米・南米地域各国駐在の24大使および外務省の島内憲 中南米局長を招き、市場統合が加速する中南米地域の現状について説明をきくとともに懇談した。外務省側からは、民間企業に対して市場統合への理解と積極的な姿勢が求められるとともに、官民が協力して、同地域市場で、より良いビジネス環境をつくっていく重要性が指摘された。

I.島内局長説明要旨

中南米諸国地域は、政治面では、キューバ以外ほとんどの国で民主化が進み、民主主義が定着している。一方、経済面では、経済運営が順調な国と、そうでない国が明確になっている。チリ、メキシコは順調であり、その他はテイク・オフもままならない。中南米地域全体の流れに大きな影響を与えるのが、ルーラ新政権のブラジルであり、注目される。なお、アルゼンチン、ベネズエラの困窮は、中南米の縮図ではなく、それぞれ固有の問題である。
現在、同地域では大きな動きが2つある。第1は、急速な地域経済統合の拡大・深化である。メルコスール(南米南部共同市場)、中南米共同市場、カリブ共同体、アンデス共同体等の経済統合が進む一方、2005年を目指したFTAA(米州自由貿易地域)の交渉が進められている。第2は、中南米に対する欧米諸国の積極的対応である。また、最近では中国や韓国なども中南米への関心を高め、経済関係強化を求めている。わが国も、加速化するFTAAや4つの地域経済統合等の動きを踏まえ、出遅れて「日本の一人負け」とならないよう、同地域との新たな関係強化をはかる必要がある。

II.大使説明要旨

1.池田 維 駐ブラジル大使

ルーラ新大統領の就任式における熱狂ぶりはすさまじく、国民の期待の高さが窺われた。新大統領は労働党・左翼であるが、選挙戦中盤からは、対外コミットの遵守や穏健発言が目立ち、外国からの懸念も解消されている。貧富の格差を是正し、「全国民が一日3食べられるように」を目標に、庶民の目線での経済政策を展開している。
また、ブッシュ大統領に面会し、意気投合した。欧米との関係強化にも熱心で、FTAA、EUとのFTA交渉(メルコスール)を精力的に進めている。日本としては、2005年のFTAA締結を視野にいれた対応をしていくことが重要である。

2.小川 元 駐チリ大使

政治面では、中道左派と右派との連立政権で安定している。経済面でも、市場競争原理を活用し、成功をおさめるなど、チリは中南米の優等生である。米国経済の減速、9.11同時テロの悪影響等にもかかわらず、2002年度の経済成長率は1.9%、インフレ率は2%台、健全な財政収支を維持した。GDPの6割を貿易に依存しているが、輸出産品の多様化推進などにより、輸出は好調である。また、FTAについては、EUと締結し、2月から発効される。また、韓国、米国とは交渉が終了し、2月のラゴス大統領訪日の帰途、韓国で調印が行われる。中国とは、3月から研究会がスタートする。チリは、日本とのFTA締結の意欲が高く、日本の産業界からもバックアップをお願いしたい。

3.伊藤昌輝 駐ベネズエラ大使

ベネズエラの政治動向は、過去2年にわたって混迷してきた。チャべス大統領を辞任に追い込むため、昨年12月2日以来ゼネスト状態が続いており、これに石油公団が加わった。石油生産レベルは15%程度まで落ち込んでおり、国内のガソリン・スタンドでは6キロの列ができている。国民の不満は爆発寸前である。また、輸入の15〜16%を同国の石油に依存している米国等も被害を被っている。日系企業からも、輸送手段がなく、機材・部品が調達できないといった悪影響が報告されている。今年の半ばまでに正常化しないと、倒産、失業など深刻な影響が生じよう。チャべス政権は独裁色を強めており、今後の政治動向を展望する上で、軍部の動きが鍵となる。

4.渡辺俊夫 駐アルゼンチン大使

昨年はアルゼンチンにとって史上最悪の年となった。経済成長率はマイナス12%、インフレ率は40%強、失業率は20%、一人あたりGDPは為替の大幅な下落の影響もあって、7,000ドルから2,500ドルにまで一気に落ち込んだ。しかし、ここにきて、底をついたとの共通認識がでてきており、経済は落ち着きを取り戻しつつある。現在、アルゼンチンは夏休み期間であり、楽観的な国民性の影響もあろうが、各地のリゾートはバカンスを楽しむ人々で賑わい、主要新聞のアンケートでも同国経済の展望は明るいとの結果が出ている。実際、G7等の好意的な働きかけもあり、IMFと債務返済延期を合意するなど、明るさがでている。
本年は、大統領選挙の年であり、抜本的な改革の年である。ドゥアルデ現大統領のライバルであるネオ・リベラル派のメネム元大統領が早々に立候補を表明するなど、多くの候補者が出ており、混戦模様を呈している。ただし、選挙戦の時期については、まだはっきりしない。なお、同国は、愛知万博に参加を表明するなど、重要な親日国であることを認識する必要がある。

5.堀村隆彦 駐メキシコ大使

日本とのFTA締結は、今秋を目指しているが、一次産品の問題など、なかなか一筋縄ではいかない。メキシコはすでに32ヵ国とFTAを締結しており、メキシコ政府は日本との締結に熱心である。しかし、農家や中小企業は具体的なメリットを求めており、交渉の行方は予断を許さない。経済については、NAFTA効果により、米国との貿易額は2倍、投資額は3倍に増加するなど、国内景気は良好である。
最後に、治安の問題に触れたい。誘拐事件の多発などから、フォックス・小泉首脳会談でも重要案件として議題に上り、改善に向けて努力しているところである。

《担当:国際協力本部》

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