経済くりっぷ No.22 (2003年6月10日)

5月21日/国土・都市政策委員会(共同委員長 平島 治氏)

観光振興政策としてのカジノ

−あるべき方向性と制度のあり方につき、自民党「カジノ議連」と意見交換


国際観光の振興や都市・地域の魅力向上を図る上で、都市エンターテインメント機能を高めていくことが重要である。とりわけ、参加型エンターテインメントの一つであるカジノについては、構造改革特区構想に対して地方自治体から提案が提出されるなど、注目が寄せられている。そこで日本経団連国土・都市政策委員会では、自由民主党「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」の野田聖子会長および岩屋毅事務局長、また、日本プロジェクト産業協議会都市型複合観光事業研究会の美原融主査を招き、わが国におけるカジノ導入への考え方などについて説明をきくとともに、意見交換を行った。

I.野田会長挨拶要旨

日本人海外旅行者数と訪日外国人旅行者数との間に4倍もの格差が見られる中、カジノを中核とした新たな国際観光産業を促進していく観点から、昨年12月、自由民主党内に「国際観光産業としてのカジノを考える議員連盟」(以下、「カジノ議連」)が発足した。カジノを産業として位置付けることによって、地域振興や雇用創出、税収確保などに多大な貢献を果たすと考えている。
カジノと言うと、依然としてギャンブルや賭博という負のイメージが強いが、「先輩格」のラスベガスは、産官一体となって、一切の利権を排除するとともに、不正を監視する体制を確立している。日本でのカジノも、利権排除と不正監視が生命線となろう。カジノ立法化に向け、来年の通常国会で法案を審議、成立させたい。

II.岩屋事務局長挨拶要旨

現在、政府が推進している構造改革特区に関しては、大阪府や静岡県など9自治体からカジノ特区創設に向けた要望が寄せられている。とりわけ東京や大阪では知事が先頭に立って積極的に進められているが、結果的に特区構想としては認められていない。本件については、鴻池特区担当大臣とも意見交換を行ったが、国が関与せずに一部の地方自治体がカジノを管理・運営することは不適切で、特区になじまないとの結論を得た。
「カジノ議連」では、これまでの検討の成果を基本的考え方として取りまとめたが、「収益金分配の透明性確保」や「健全な楽しみ方の教育」など、従来の公営ギャンブルとは一線を画す内容となっている。今後、夏から秋にかけて法制度上の問題点を整理し、国民各層の理解を得ながら、来年の通常国会での法案成立に向け、取り組んでいきたい。

III.美原主査説明要旨

1.カジノは観光資源の重要な要素

エンターテインメントは、成熟した社会において雇用効果および消費活性化効果が大きい。これを産業として認知し、促進することは国にとって重要な施策である。とりわけ参加型エンターテインメントであるカジノは、胴元のリスクや収益算定の複雑性等の面において、公営賭博とは本質的に異なる。また、カジノはあらゆる産業の中で最も管理され、その施行は自由ではありえず、これに関与し得る主体は官民を問わず、厳格な規制の対象となる。

2.カジノ施行の政策目的

諸外国においては、カジノの政策目的は、観光振興のほか、地域・都市再生、雇用増、観光のランドマーク施設創出、負担感のない新たな税源の創出など、多様である。カジノの直接的効果として、税収増、雇用増、来訪客・旅行客増が見込まれる一方、間接的効果としては、地域消費効果増、地域の賑わい創出等が期待される。政策の目的および効果を明確に把握し、立地条件や顧客層・制度のあり方を確立することが必要である。
このうち、制度のあり方としての基本的考え方は、「ギャンブルからゲーミング・エンターテインメントへ」ということになろう。市民社会の成熟化に伴い、カジノ施設は単純賭博施設から複合的なエンターテインメント施設へと変化している。

3.わが国における制度創出の手法

わが国にカジノを導入する上で、社会的に否定的な影響が生じるとの認識を持つことが制度設計の出発点となる。すなわち、施行に関与し得る主体に対して厳格な要件を課すとともに、利権を構成させないチェック・アンド・バランスの制度をつくることが必要である。
その上で、刑法第35条(正当行為)を根拠とし、刑法第185〜187条(賭博及び富くじに関する罪)の違法性を阻却する特別立法措置が適切である。これにより、法の健全なる施行を担保する考え方や仕組みを明確にし、国民にとって分かりやすい制度を整備できよう。

4.施行の形態

施行主体についてみると、公共主導の場合、制度の管理・監視が簡素化され、制度や規制を維持する費用が縮減できるものの、公的部門内部で利権が構成されるリスクは増す。一方、民間主導の場合、施行に伴うリスクの一部ないしは全部を民間部門に移転できるが、市民を含む合意形成のハードルが高く、現行法制度においては法技術的にも困難が多い。従って、公衆の信頼を得る上からは、法律上の施行者は公共、運営は民に委ねる折衷型が望ましいと言える。カジノ創出は「規制緩和」ではなく、「規制創出」になるが、これは社会秩序を維持するための社会規制であって経済規制には当たらない。
また、国・地方の関係については、地方が主、国が従ととらえつつ、「公共施行、ただし民間資金力・運営力・技術力等を活用」という基本的枠組みを堅持することが重要である。

IV.意見交換(要旨)

日本経団連側:
日本社会にカジノが定着する見通しはあるのか。
美原主査:
可処分所得のうちエンターテインメント・娯楽に費やす、日本人の消費性向は、国際的に相当高い水準にある。公営賭博に参加していない普通の老若男女が参加できるような施設を創出できれば、有望な市場になり得る。

日本経団連側:
観光振興策の一環としてカジノをとらえる際、「遊びのマナー」も併せて教育する必要がある。
岩屋事務局長:
われわれが考えるカジノ創設は、あくまで大人がゲームを楽しむ環境づくりである。ご指摘のとおり、わが国にこれまでなかった、大人のゲーム文化を育てる場を提供したい。
《担当:産業本部》

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