経済くりっぷ No.25 (2003年7月22日)

労働法規委員会

労働基準法の一部を改正する法律案が可決成立


2001年7月の、労働基準法の改正につき速やかに検討すべきとする政府の総合規制改革会議の「中間とりまとめ」を重視し、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会では、同年9月より、25回にわたり労働基準法の改正について検討を重ねてきた。労働法規委員会(委員長:藤田弘道氏)では、規制緩和の方向で検討すべきとする意見を取りまとめ、労働条件分科会が2002年12月に取りまとめた建議「今後の労働条件に係る制度のあり方について」に反映させた。同建議をもとに、政府は「労働基準法の一部を改正する法律案」(政府原案)を作成し、衆議院での修正を経て、6月27日の参議院本会議で可決成立した。


I.「労働基準法の一部を改正する法律案」(政府原案)の概要

政府原案は、(1)有期労働契約期間の上限の見直し、(2)解雇に関する規定の整備、(3)裁量労働制の簡素化、の3つの柱からなる。

1.有期労働契約の上限の見直し

期間の定めのある契約の場合、現行では上限が1年、高度で専門的な知識を有する者と60歳以上の者は3年となっている。「雇用形態の多様化の進んでいる中で、雇用の選択肢を拡大するために、有期労働契約期間の上限を引き上げるべき」との労働法規委員会の主張を受けて、今回の改正案では、原則を上限3年に延長するとともに、高度専門職と60歳以上の者も上限を5年に引き上げている。
さらに、高度専門職については、現行の新技術や新商品の開発、事業の開始、転換などの業務の要件がはずされ、また、5年契約した後もさらに5年ごとの契約が可能となっている(現行:3年契約でも更新は1年以内)。
また、有期労働契約の締結および更新・雇止めについては、従来、厚生労働省で指針(通達)をつくって周知啓発活動を行っているが、より実効性のある行政指導を可能にするべく、通達である現在の指針の効力強化が検討されていた。
これに対して労働法規委員会は、同指針の法制化など規制強化には反対である意見を出したため、今回の改正では、指針は法律の根拠に基づく告示に格上げされるにとどまっている。

2.労働契約終了のルール

  1. 解雇権濫用法理の明文化
    現在、解雇をめぐるトラブルが増加しているが、その理由として、裁判所で確立している解雇権濫用法理が周知されていないとの指摘があった。そこで、今回の改正では、この解雇権濫用法理をそのまま労働基準法に明文化するというものである。

  2. 就業規則等
    就業規則の必要的記載事項である「退職に関する事項」と、労働契約締結時に書面で明示しなければならない「退職に関する事項」に、「解雇の事由」が含まれることを法律で明らかにする。

  3. 解雇理由の明示
    解雇予告された日から退職の日までの間であっても、解雇の理由を記載した文書の交付を要求できることにする。
    労働法規委員会では、今回の改正は、増加しつつある労使紛争の早期の妥当な解決に役立つという考えから、妥当であるとの意見を表明している。

3.裁量労働制の簡素化について

1998年改正のときに導入された「企画業務型裁量労働制」は、手続きが非常に煩雑で、適用範囲が狭く、全国で対象労働者が5〜6千人程度に留まっており、ほとんど利用が進んでいない。
労働法規委員会では、同制度の利用の促進を図るべく、手続き要件の緩和や適用範囲の拡大について、意見を出してきた。政府原案では、こうした意見をとり入れ、(1)「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」という限定をはずす、(2)労使委員会の決議は全員合意(1人でも反対だと不可)が必要であったのを、委員の5分の4以上の多数決で足りるとするなどの見直しがなされている。
一方、研究職などの「専門業務型裁量労働制」については、新たに労使協定によって、企画業務型で導入されている健康・福祉確保措置(例えば産業医の活用)などを導入することが必要となった。この改正については、労働法規委員会でも対象労働者の健康福祉確保は重要との考えから、反対していない。

II.衆議院での修正案

政府原案に対して衆議院で、次の2点について修正(自由民主党、公明党、保守新党、民主党・無所属クラブ、自由党から修正案が提出)がなされ、6月5日に可決した。

  1. 解雇法制については、政府原案の「使用者は(中略)解雇することができる」との部分が、解雇は自由との誤った印象を与えるという指摘を受け、削除された。
    この修正は、文言は変わっても、判例の解雇権濫用法理をそのまま労働基準法に明文化するという性格を変えるものではないため、労働法規委員会でも反対はしなかった。

  2. 有期労働契約に関しては、法律施行後3年後に検討し必要な措置を講じることと、その間に労働契約期間が1年を経過した後は、労働者は一定の場合を除き、いつでも退職できるとの暫定措置が修正で入った。
    この修正は、契約拘束期間の長期化に伴う労働者の保護の観点からのものであり、労働法規委員会は、この点もやむを得ないとして、反対しなかった。

III.今後のスケジュール

「労働基準法の一部を改正する法律案」(衆議院での修正案を含む)は、6月27日の参議院本会議で可決成立した。施行日は今年12月1日または2004年1月1日の予定である。
なお、経済界が主張している解雇法制の金銭解決の部分、ホワイトカラー・イグゼンプションなどについては、今回の改正で先送りとなったが、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で引き続き検討することとなっている。これに対して労働法規委員会では、これらの制度の早期成立に向けて、経済界の意見の取りまとめと反映に努めていく予定である。

《担当:労働政策本部》

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