経済くりっぷ No.26 (2003年8月12日)

7月29日/中東・北アフリカ地域委員会(委員長 渡 文明氏)

イラク復興には、日本企業と投資家の協力が不可欠


多民族国家イラクの北部には、約400万人のクルド人が住んでいる。訪日したネチルバン・バルザーニ クルド人自治区首相は、イラク復興における日本の役割に、大きな期待を表明した。

I.バルザーニ首相発言要旨

  1. 1921年にアラブ人とクルド人が協力して建国したイラクは、豊富な天然資源と人的資源を擁するが、こうした豊かさは、国民の福利の向上には結びつかなかった。米英軍により、35年間のバース党の専制体制が排除されたことは目覚しい成果だが、安全保障や政治情勢の改革はこれからであり、バース党支配の清算には長い時間を要する。

  2. 新生イラクの創造は、ゼロからのスタートである。経済復興のために、2,400万人のイラク国民は、道路や電力、水や衛生など基本的なサービスを必要としている。イラクの工業基盤はバース党支配により疲弊したが、石油などの主要産業は、多額の投資と技術支援によって再生できる。

  3. イラク統治評議会が発足し、イラク人による再生、復興のプロセスが開始された。メンバー25人中、5名のクルド人が選出された。統治評議会は、閣僚の任免、予算編成、憲法制定などを行う。今後数週間で、活動の成果が見えてくると思う。

  4. クルド人自治区は、過去12年間、女性の権利をはじめ、トルクメニスタン人やアッシリア人など他の民族集団の権利を守ってきた。これは、今後、イラク全土に適用可能なモデルと認識している。また、クルド人自治区が連邦主義の基に、独自に他国と経済協定を結ぶ権利が与えられることを期待している。連邦制は、イラク全体の結束を強めることにも役立つ。

  5. 日本政府が、イラクに人道支援のため自衛隊を派遣することを歓迎する。また、イラクの本格的な経済復興のために、日本企業や投資家、専門家にイラクの現状をみていただき、必要な協力を実施してほしい。

II.意見交換(要旨)

日本経団連側:
  1. アラブ人が主張する立憲君主制をどう考えるか。
  2. 石油の国有化を認め、石油収入を人口比で配分するという考えについてどう思うか。
  3. 北部のキルクーク油田の今後の扱いは。
  4. クルド自治区は海に面しておらず、トルコやイランなど、近隣諸国との関係が一層重要になるのか。

バルザーニ首相:
  1. 統治形態は、統治評議会で議論されるであろう。憲法制定を待つ必要があるが、激しい議論が予想される。
  2. 石油産業は民営化すべきであり、全てのイラク国民が石油収入の恩恵を受けることが望ましい。富の公平な分配のためには、国勢調査が必要になる。
  3. キルクークは地理的、歴史的にクルドの土地だが、石油資源は南部のバスラなど他の油田と同様、国全体に属すると考えている。イラクの全ての民族集団が、天然資源を均等に保有することを期待する。
  4. これまで同様、近隣諸国と友好裡に共存していきたい。
《担当:国際経済本部》

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