経済くりっぷ No.27 (2003年9月9日)

7月29日/海洋開発推進委員会総合部会(部会長 鈴木賢一氏)

わが国の大陸棚調査の現状


わが国を取り巻く広大な大陸棚については、国連海洋法条約により、詳細な調査に基づき、国連への申請(申請期限は2009年)を行い、認定を受ければ、経済上の権利を確保できることになっている。現在、政府による調査が進められているが、現在のペースでは必要な調査を完了することが極めて困難な状況にある。海上保安庁海洋情報部の谷 伸 大陸棚調査室長より、わが国の大陸棚調査の現状について説明をきくとともに、懇談した。

○ 谷室長説明要旨

1.大陸棚とは

世界的に水深120m程度までは、通常極めて傾斜の緩い海底が続き、そこから海底面の傾斜が急になる。大陸棚とはこの海岸から続く平坦な地形の部分を指す。地球上の全炭化水素資源の約4割は大陸棚に存在するといわれ、石油、天然ガス、鉱物資源等が豊富に分布している。

2.大陸棚の管轄を巡る動き

1945年、米国のトルーマン大統領は米国周辺の大陸棚に埋蔵する天然資源は米国の管轄下に属するとの宣言を行った。1958年には大陸棚条約が制定され、沿岸国に、「水深200mまで、または、開発可能な水深までの海底および海底下」の海底資源の管轄権が認められた。しかし、「開発可能な水深」まで大陸棚と認めるということは、技術力のある先進国に有利なものであり、発展途上国を中心に反対の声があった。
そこで、1982年に国連海洋法条約が制定され、領海を領海基線から12海里以内と設定し、新たに領海基線から200海里までの(領海を含まない)海域を排他的経済水域(EEZ)とし、海底資源、生物資源等の採取等経済活動に関する排他的権利を認めた。EEZは海底や海底下も含むため、大陸棚もEEZの範囲に含まれることになった。
加えて、本条約では、地質的な面から、大陸棚がこの範囲よりも伸びていれば200海里を超えて水域を延ばすことができる。具体的には、大陸棚の先の海底面の傾斜が急な部分と海底の接続部(大陸斜面脚部)が末端とされており、ここから60海里先までを大陸棚とすることができる。併せて、陸から流入した堆積物も陸塊の一部であると主張することも可能であり、大陸斜面脚部からの距離の1%よりも堆積岩が厚ければ、そこまで大陸棚とすることができる。
しかし、このルールでは、陸から、海の山脈(海嶺)が続く限り、いくらでも大陸棚を延ばすことができる。そこで、領海の基線から最大350海里まで、または2,500mの等深線から100海里先までのいずれか遠い方が上限とされている。
これらの条件が整えば、自動的に大陸棚が拡張できるのではなく、各国で国連海洋法条約を発効してから10年以内に、国連の「大陸棚の限界に関する委員会」に科学的データを添えて申請を受け、その勧告に従わなければならない。わが国は1996年7月に条約を発効したため、当初は2006年7月が国連への申請期限となっていた。

3.わが国周辺の大陸棚

わが国では、国連海洋法条約が制定された翌1983年から、海上保安庁が、大陸棚調査を開始し、本年3月に当初予定の調査を完了した。この結果、沖ノ鳥島の南、小笠原の東海域など、200海里の外側にわが国の大陸棚として認められそうな海域が約65万平方km(国土面積の1.7倍)もあることが明らかになった。
わが国周辺海域には、ニッケル、コバルト、マンガン等の希少資源、メタンハイドレート等のエネルギー資源、今後の薬品開発等への貢献が期待される深海生物等が豊富に存在すると見られており、将来的にみても、国益の観点から大陸棚調査の意義は大きい。
大陸棚の拡大を主張するためには大陸斜面脚部の特定が必要となる。しかし、わが国周辺の海底地形は大変複雑であり、特定は容易でない。

4.国連への申請を巡る動き

そのため、国連の「大陸棚の限界に関する委員会」は1999年5月に「科学的・技術的ガイドライン」を制定した。これによると、大陸斜面脚部の決定にははるかに高度な調査が必要とされるため、国連への提出期限が本ガイドラインの制定から10年後の2009年に変更されることになった。
2001年12月にはロシアが世界で初めて申請を行い、昨年6月に審査結果に基づく勧告が行われた。本審査・勧告の内容は秘密となっているが、海嶺に関して科学的に高度な審査が行われた模様であり、わが国の調査についても抜本的な見直しの必要性が生じている。
海底調査については、測量船から、海底に向けてエアガンを打ち鳴らし、海底に入って屈折した音波を地震計で測定し、水深等海底地形の分析を行う「屈折調査」と、海底を掘削する「ボーリング調査」について強化する必要がある。
世界的には、ロシア、ブラジル、アルゼンチン、豪州、インド等十数ヵ国で現在調査が進んでいる。なお、米国、カナダはそもそも国連海洋法条約を批准していない。

5.わが国の対応

わが国では、昨年6月に「大陸棚調査に関する関係省庁連絡会議」が設置され、政府の調査体制が構築された。しかし、ロシアの審査状況を見る限り、国連の承認を受けるには、詳細な調査データが必要であり、広大かつ複雑な海域を抱えているわが国が、提出期限までに調査を完了することは困難な状況にある。
政府、政界等広く大陸棚調査の重要性を説いてまわり、一定の理解を得ているが、必要な予算の確保も厳しい状況にある。民間の力も活用して調査能力の更なる強化を図る必要がある。
民間の調査能力については、海外には、大型測量船を保有し、大陸棚調査を他国から受注している企業もあるが、わが国では民間の調査能力は十分とはいえない。わが国の海洋調査レベルの向上、海外の調査受託の可能性の増大など、今回を機に、わが国民間の海洋調査能力を向上させるメリットは十分ある。

《担当:環境・技術本部》

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