経団連くりっぷ No.39 (1996年 9月12日)

インドシナ研究会(座長 荒木正雄氏)/7月11日

カンボジアのラナリット第1首相との懇談会


日本政府と世界銀行は、7月11日〜12日、第1回カンボジア支援国会合を東京で開催した。カンボジアからはノロドム・ラナリット第1首相、フン・セン第2首相をはじめ、同国の政府要人が来日した。91年10月にカンボジア和平に関するパリ協定が調印されてから、カンボジアでは93年9月に新政府が誕生し、経済復興が進んでいる。
インドシナ研究会では、豊田会長の同席を得て、ラナリット第1首相他から最近のカンボジア情勢と国家再建への取り組みについて聞いた。なお、経団連では、訪メコン河流域開発協力ミッションの一環として、7月18日〜22日、カンボジアを訪問した。

  1. ラナリット第1首相発言概要
  2. ラナリット第1首相ラナリット第1首相

    1. 最近の経済情勢
    2. カンボジアは、新政権のもとで市場経済化と対外開放に積極的に取り組み、復興と再建に大きな成果を上げている。マクロ経済の安定を達成し、持続可能な開発を目指している。92年には 176.8%であった物価上昇率も95年には 7.0%にまで低下した。為替レートも1ドル=2,500リエル前後で安定している。95年の実質GDP成長率は 6.9%であった。95年の外貨準備高は1億5,600万ドルであり、今年は2億4,000万ドルに達するものと予想される。これは輸入総額の 2.5カ月分に相当する。

    3. 投資先としてのカンボジア
    4. カンボジアは持続的な発展のために、海外から年間5億ドルの資金を必要としている。特に日本からは資金のみならず、技術面においても多大な支援を受けてきた。カンボジアにとって日本は最大の援助供与国であるが、日本企業によるカンボジアへの投資は活発ではない。カンボジアを投資先としても検討してほしい。
      近く経団連のミッションがカンボジアを訪問するが、カンボジアがビジネスに適した場所であることを確認してもらいたい。カンボジアは、2億2,500万人の人口を有するメコン河流域に位置するだけでなく、4億人を超える東南アジア市場の中心でもあり、 400万人の低コストで勤勉な労働力にも恵まれている。カンボジア開発評議会(CDC)が中心となり、東南アジア地域で最も有利な投資優遇措置を提供している。また、カンボジアは多くの工業先進国において一般特恵関税の適用対象国となっている。
      カンボジアは、法治国家として効率的で透明性のある政府を構築するため、新しい法制度の整備を進めている。97年までに公務員の20%削減、軍人の30%削減を目標にしているほか、公正で独立した司法の確立、経済の安定と国庫収入の確保のための財政金融制度の整備などに取り組んでいる。いまカンボジアは世界経済との統合に向けて努力しており、97年にASEANに加盟する。メコン河流域の総合開発計画に対しても積極的に参画している。

    5. インフラ整備と治安の回復
    6. カンボジアは、アジア開発銀行、世界銀行などの国際機関や2国間政府開発援助、また民間部門による支援を得て、貿易・投資の拡大に必要なインフラの整備を進めている。例えば、バンコク/プノンペン/ホーチミン/ブンタウを結ぶ道路建設、シアヌークビルとラオス南部を結ぶ道路建設、タイ/カンボジア/ベトナムを結ぶ鉄道建設、プノンペン港とシアヌークビル港の改修、シアヌークビル新空港の建設、プノンペン空港の拡張などが予定されている。繊維、衣類、観光、農産物加工業のほか、道路、鉄道、空港、港湾、発電所のインフラ整備事業など、あらゆる分野への投資を歓迎する。
      法と秩序は守られており、国民の9割以上は治安問題から解放されている。クメール・ルージュの活動領域は、タイとの国境近くの北部と北西部に限定されている。地雷の問題についても同じ地域に限られており、除去作業も進められている。観光地や事業活動の拠点からは遠く離れた場所であり、障害になるものではない。偏った報道によってカンボジアの現状を誤解しないでほしいと思う。

  3. スン・チャントールCDC事務局長説明概要
  4. 2000年までの持続的な経済開発のためにカンボジア政府は、
    1. マクロ経済の安定維持、
    2. 税制および関税制度の改革、
    3. 国家機構の改革、
    4. 財政支出の見直し、
    5. 地域開発と貧困の撲滅、
    6. インフラの整備、
    7. 社会開発の促進、
    8. 外国投資の誘致、
    9. 地域経済および世界経済への統合
    を目指している。
    2000年までに貯蓄率を現在の4%から8%に高め、農業の生産性を向上させたい。軍事支出のGDP比についても現状の5%から 3.9%に低下させ、教育と医療関係支出を現在の2%から5%にまで引き上げたい。政府にとっての重要な課題として貧困の撲滅がある。教育制度の向上、医療・衛生の改善が求められている。中小企業の活動を活発にすることが必要である。輸送のための設備やインフラが整っていないため、農産物も都市部に出荷することができず、農村に留まっているのが現状である。地域経済、世界経済との統合を進めるために証券取引所の設立も検討している。
    カンボジア開発評議会(CDC)は、カンボジアへの投資を検討している外国企業にとっての窓口である。CDCのもとには、カンボジア投資委員会(CIB)とカンボジア復興開発委員会(CRDB)があり、前者は民間投資を、後者は公的援助などを担当している。
    カンボジア投資法は多くの投資促進策を規定している。法人税率は9%で、タックス・ホリデーは8年間、損失は5年間の繰り越しが可能である。輸入税の免税措置もあり、配当・利益の送金も自由である。最長70年間の土地使用権が付与される。


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