経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

ジョン・ハワード オーストラリア首相との懇談会(座長 関本副会長)/9月19日

経済改革に積極的に取り組むオーストラリア


オーストラリアのジョン・ハワード首相が経団連を訪れ、関本副会長、那須副会長、青井副会長、今井副会長、熊谷副会長、酒巻野村證券社長と最近の豪州情勢、日豪関係などについて懇談した。席上、同首相は新政権の経済改革への取り組みをアピールするとともに、経団連に対してハイレベル・ミッションの派遣を要請した。以下が懇談の概要である。


ハワード首相

  1. 新政権の2つの課題
  2. 私の政府はさる3月に成立したが、強弱双方を有する経済を引き継いだ。強い面は、比較的低いインフレ率にもかかわらず、着実な成長を遂げてきたことである。わが国経済は95-96年度は4%を超える成長を遂げ、96-97年度も3.5%前後の成長を続けると予測されている。
    弱い面は、構造的問題をいくつか抱えていることだ。その最たるものは、巨額の財政赤字である。貯蓄率の低さから、80年代に外資の導入を大量に行なった結果、対外債務が大きく膨らんだ。この問題を改善するため、私たち政府は最近、厳しい予算案を提出したが、国民には好意を持って受け入れられている。我々は2つの段階に分けて赤字を削減し、3年後には収支を均衡に持っていく計画である。これによって貯蓄率を向上させることができれば、財政赤字もかなり改善されるだろう。
    もう一つの大きな課題は、労使関係の改革である。現在、法案を議会に提出しているが、通過すればよい影響を与えるだろう。この改革の目的は、労働組合の独占的な力を弱め、雇用者と被雇用者がより自由に労使問題について話し合えるようにすることである。具体的には、非常に強い力を持つ現在の産業別組合を、徐々に企業ベースの組合に改革していきたい。これには未だに強い抵抗があるが、辛抱強くやっていく所存である。

  3. 規制緩和の推進
  4. 財政赤字の解消、労使関係の改善の2つの課題に加え、豪州の産業に一層の競争力を持たせるため、新政権は国内市場の規制緩和を推進していく決意である。特に、電力と通信の自由化は来年までに達成したい。その一例として、国営の電気通信会社テルストラの株式の3分の1を売却する計画がある。これによって調達した資金の一部を環境対策に使いたい。法案はまだ議会を通過していないが、世論調査によれば、この計画は国民の十分な支持を得ている。
    また、政府は、財政と金融政策の透明度を増大させる努力も行なっている。中央銀行である豪州準備銀行の自主性を強化し、インフレ率を2〜3%に抑えるよう共同して努力していく。また、Charter of Budget Honesty(公正予算宣言)の立法化も併行して進めている。これは連邦総選挙の際に、政府にその時点での予算の現状を公表させるというものであり、無責任な選挙公約に大きな制約を課すことができよう。

  5. 対日、対米関係
  6. 日本経済は豪州にとって非常に重要である。わが国の大きな顧客であるだけでなく、世界第2位の経済大国でもあるからだ。確かに日本の財政赤字も高水準だが、日本には大きな貿易黒字があり、貯蓄率も羨ましいぐらい高い。これは恐らく文化的な背景もあると思うが、政策の立案に際しては大きなメリットとなろう。
    日米関係について個人的な感想を言わせてもらえば、日本政府は米国との関係において非常に有益なことをしてきたと思う。昨年、日米共同宣言が発表されたが、これは両国首脳の努力の賜物である。また、昨年は日米関係にとって、過去の難しい状況から脱した大きな一年でもあった。
    豪米関係もよい状況にある。7月に米国と協議した結果、安全保障に関する関係が大幅に改善された。クリントン大統領は、再選されれば今年の11月、APECフィリピン会議の前に豪州を訪問する予定になっている。

  7. 中国について
  8. 中国は孤立させるべきではなく、この地域のメンバーとして引き留めておくことが必要である。私は、現在豪州を訪問しているチベットの精神的指導者、ダライ・ラマ氏に会う予定だが、中国はこれに対して少し神経質になっている。しかし、中国を常にエンゲージしておくことは重要であり、WTOへの加盟も条件が満たされれば認めるべきである。中国は、放置するにはあまりに大き過ぎる市場だ。また、中国は豪州に多くの投資をしており、100以上の豪州企業も中国で活動している。したがって、前向きの関係を維持することは不可欠だ。

  9. ミッション派遣の要請
  10. 経団連によるハイレベルのミッションを、来年豪州に派遣していただくことをぜひお願いしたい。私と経団連の最初の接触は、フレーザー内閣の大蔵大臣時代に、キャンベラで経団連ミッションにお会いしたことである。その後も何回かミッションを出したと聞いているが、私が首相になってからはまだおいでになっていない。経団連のミッション派遣は豪州政府だけでなく、民間も大いに期待している。豪州企業のトップ達は、日本の経済界との交流を一層深めたいという要望を強く持っている。

  11. 自由懇談
  12. 熊谷副会長:
    中国における食糧問題は深刻だが、豪州は中国が不足する食糧を供給する能力があるか。
    ハワード首相:
    わが国は非常に競争力のある農産物を持っており、供給能力も高い。
    唯一の問題は輸送と労使関係である。これらを解決できれば、中国で食糧不足が起きても、豪州として積極的に支援できる。

    関本副会長:
    2005年に開催される国際博覧会に日本が立候補しており、これに対するご支持をお願いしたい。
    ハワード首相:
    わが国のブリスベーン市にも立候補の計画があり、もし実現すればそちらを優先せざるをえない。しかし、豪州から立候補がなければ、日豪の友好関係を勘案し、日本支持を前向きに検討したい。


くりっぷ No.42 目次日本語のホームページ