経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

競争政策委員会(委員長 弓倉礼一氏)/10月4日

英国の競争政策をめぐる問題についてブリッジマン英国公正取引庁長官と懇談


競争政策委員会では、公正取引委員会との協議のため来日した英国公正取引庁長官ジョン・ブリッジマン氏を招き、英国およびEUにおける競争政策の動向を聞くとともに懇談した。
以下は、その概要である。

  1. 競争法の改正の動向
  2. 英国では、1976年制限的取引慣行法の改正法案が検討されている。この改正はEC競争法の基本規則の一つであるローマ条約第85条(競争制限行為の禁止)に基づいてカルテルを原則禁止とするものであり、これに違反してカルテルを行なった事業者に対して、35万ポンドまたは年間総売上の10%のいずれか高い方の金額を限度として罰金を課す権限が公正取引庁長官に与えられることになる。これによりカルテルに対する抑止力が高まることを期待している。
    また、公正取引庁は、より強力な調査権限を与えられる。極めて悪質な違反行為が見られる場合には、独自の判断で排除措置等を命じることができ、違反行為に速やかに対応できるようになる。

  3. 再販売価格維持適用除外の見直し
    1. 書籍に関する再販売価格維持制度
    2. 書籍に関しては、裁判所により再販売価格法(再販売価格維持行為の原則禁止)の適用除外とされることが認められており、この適用除外はネット・ブック・アグリーメント(NBA)と呼ばれている。しかし、昨年夏に有力出版業者が書籍の再販売価格維持行為(定価販売の強制)を取り止めたために、NBAは実質的に崩壊し、価格競争が行なわれるようになった。書籍取引で競争原理が導入されてからまだ日は浅いが、今のところNBAがなくなったために破産に追い込まれた書店の例はなく、価格の高騰も見られない。書籍の再販売価格維持行為が認められなくなると、出版される書籍の種類が減るのではないかという懸念も一部にあったが、出版される書籍の種類も多岐に渡っている。しかし、NBAが崩壊したことが出版界や書籍取引に与える影響については、引き続き注意深く監視していくつもりである。なお、NBAは法的にはまだ認められているが、来年1月から制限的取引慣行裁判所において見直しが正式に始められる予定である。

    3. 医薬品に関する再販売価格維持制度
    4. 現在、再販売価格維持制度は、一部の医薬品のみに実質的に残っている。これらに関する適用除外は裁判所のみが取り消す権限を有している。適用除外が認められた背景には小規模の処方箋薬局が激しい価格競争にさらされて経営が破綻しないようにという配慮があった。適用除外を取り消すよう公正取引庁が裁判所に要請するためには、適用除外を決定した当時と社会・経済情勢がいかに変化したかを証明する必要がある。公正取引庁は、製薬会社、卸売業者、薬局、各種事業者団体からヒアリングを行なっており、その結果を年内にも公表する予定である。

  4. 合併規制
    1. 英国の合併規制
    2. 1973年公正取引法により、合併によって資産が7千万ポンドを超えるか、市場占拠率が25%を超える合併事案は、公正取引庁長官は「独占および合併委員会」に事案を付託するよう貿易産業大臣に勧告することができる。独占および合併委員会では、通常、長期間の審査が行なわれるが、1994年に規制緩和法が成立し、公正取引庁が資産分割などの約束を合併当事者から取り付けることによって、独占および合併委員会へ事案を付託する必要がなくなり、合併が認められるまでの時間が大幅に短縮された。この新しい条件付承認制度ですでに14件の合併案件が審査された。
      また、1980年競争法により、合併が行なわれた後であっても、合併企業がその優越的地位を濫用して反競争的行為を行なっていた場合には、競争状態を回復するために必要な措置を採ることができる。

    3. 欧州共同体の合併規制
    4. 「共同体規模」を持つ大型合併については、欧州委員会が管轄権を有している。共同体規模を持つかどうかの判断基準は、(1)合併当事者全体の全世界での累積売上高が50億ECU以上であり、かつ(2)当事者のうちの2当事者以上のEU域内からの売上がそれぞれ2億5千万ECU以上であることである。しかし、各当事者がそのEU域内での売上の3分の2以上を同一の加盟国から得ている場合には、その合併の影響はその加盟国に最も顕著に現れると考えられるので、当該加盟国が管轄権を主張することができる。
      現在欧州委員会では、共同体規模の判断基準を引き下げることを検討中であり、これが実現すれば欧州委員会の管轄に服する合併案件が増加することになる。英国政府は、この提案について検討中であるが、今のところ、基準を引き下げるべき十分な理由は示されていないと考えている。
      また、国境を超える合併について複数国の競争当局に届け出なければならず、企業負担が大きいことが問題となっており、現在負担軽減策について検討が行なわれている。英国政府は企業負担は最小限にすべきであると考えており、望ましい届け出のあり方について民間企業と意見交換を行なっている。

  5. 競争法のハーモナイゼイション
  6. 基本的に二国間の協力関係を緊密にすべきであるというOECDの勧告に従い、各国が協力を推進するのが、ハーモナイゼイションへ向けた最も効果的な方法であると考えている。一部で議論されている競争法に関する多国間協定は現実的ではない。

ブリッジマン長官(左)と弓倉委員長(右)


くりっぷ No.42 目次日本語のホームページ