経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

国際協力委員会(委員長 熊谷直彦氏)/10月3日

国際貢献と国益の確保のためのODA


経団連では、より総合的に国際協力を推進していく観点から、これまでの経済協力委員会、国際産業協力委員会、国際文化交流委員会を統合して新たに国際協力委員会を設置した。10月3日、同委員会の初会合を開催し、本年度の国際協力委員会活動計画ならびに国際貢献・人材派遣構想部会で取りまとめた政策提言「官民連携による途上国への知的支援の推進を求める」(案)を審議した。なお、当日は審議に先立ち、畠中外務省経済協力局長を招き、わが国の経済協力の現状と今後の展望について説明を聞いた。

  1. 畠中局長説明要旨
    1. わが国の政府開発援助(ODA)をめぐる状況
    2. 途上国に対するわが国のODA供与額は、95年は144億8,900万ドル(円ベースでは1兆3,854億円)で、5年連続の世界第一位であった。地域別に見ると、近年、減少の傾向にあるもののアジアが全体の54.4%を占めている。
      わが国ODAにおける円借款は、返済分を除く実質ベースで95年は66億ドルであり、その99%以上がアンタイドである。ODAに借款のスキームを取り入れている国は、フランス(11億5,000万ドル)、スペイン(6億5,000万ドル)、イタリア(4億3,000万ドル)、ドイツ(2億9,000万ドル)に限られており、わが国の円借款は圧倒的な規模である。円借款の受注先を国別に見ると、95年度の実績で、日本企業が27%、OECD諸国企業が13%、途上国の企業が60%となっている。途上国企業の伸長は目覚しく、特に韓国、台湾、シンガポール、中国などの企業が目立っている。日本企業の受注実績について、日本国内では27%という数字が独り歩きして誤解を招いているようだが、10億円以上の大型プロジェクトの6割は日本企業が受注している。また、OECD諸国の13%に比べると日本企業はかなり健闘している。
      日本国民の間には、米国の2倍近くの援助を日本が単独で行なう必要があるのかという雰囲気もある。しかし、わが国ODAは絶対額で言えば世界1位であるが、ODAの対GNP比率で見ると、95年は0.28%と世界15位に止まっている。
      また、財政再建の厳しい状況の中、来年度ODA予算のシーリングは、2.6%と大幅に抑えられ、昨年の実質伸び率(3.5%)も下回った。ODAは日本の国際貢献の最も重要な柱の一つであり、予算の有効活用に努めたい。

    3. 東西冷戦後の変化
    4. 冷戦の終焉により、イデオロギーから開放され、真の意味で途上国の開発を支援できる環境が生まれた。95年の社会開発サミットでの議論に見られるように、人間中心の援助の重要性が認識されるようになり、20・20原則」も生まれた(供与国からの援助の20%は、途上国の教育などの社会開発のために使われなければならない、途上国政府は国家予算の20%を社会基盤の整備に投資しなければならないという原則)。わが国は、95年度にはODAの26%を社会基盤整備に割り当てている。
      また、96年5月には、OECDの開発援助委員会で「新開発戦略」が採択された。新戦略では、途上国が自らの開発に主導的な役割を果たす「オーナーシップ」の考えを重視し、その上で途上国と先進国が開発のために責任を分担しつつ協力する新たな「グローバル・パートナーシップ」の重要性を提唱している。また、ODAの額をGNPの0.7%にまで引き上げるといった従来の目標に代えて、2015年までに貧困人口の割合を半減させる、乳幼児の死亡率を3分の1に低下させる等、援助国や途上国の国民が援助の成果を目で見て理解できるような成長重視型の開発目標を設定している。

    5. 開発援助の新しい方向
    6. わが国としては、今後、日本の援助により技術を習得した途上国の専門家を周辺国の技術協力に活用する「南南協力」を強化していきたい。また、民活インフラ整備に対する協力等、ODAと民間経済協力の有機的連携を強化していきたい。特に経団連との間では、すでに連携関係が形成されており、先般、経団連が調査団を派遣したメコン河流域の開発協力についても官民が協力して推進する事例としたい。
      また、貿易振興や投資促進など民間にノウハウが蓄積されている分野については、民間企業の人材を途上国へ派遣できるよう、来年度予算要求の中にその受け皿を打ち出した。その他にも、地方の自治体が行なう国際協力活動への支援やNGO事業補助金を通じたNGO活動の支援などを積極的に推進していきたい。

    7. わが国にとってのODAの役割
    8. ODAはわが国の国際貢献の重要な柱であり、外交手段である。同時に、ODAは国益を実現するための大切な手段でもある。食糧、エネルギーなどを途上国からの輸入に依存しているわが国にとって、資源の安定供給を確保するなど、国民経済活動を支えるためにも、ODAの有効な活用を通じて途上国との安定した関係を維持していくことは重要である。援助をもっと身近な問題として捉えてもらいたい。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    国益に結びつく援助を実施するためには、アンタイドの問題を再考する時期に来ているのではないか。
    畠中局長:
    アンタイドの再考については、今後議論させていただきたい。ただし、円借款をタイドの方向に戻していくことは、現時点では難しい。官民が連携して民間活動を支持するODAの活用を検討していきたい。

    経団連側:
    資源確保のためには、中東地域だけでなく、シベリアの油田確保を見据え、ロシアに対するODAの供与等についても検討してもらいたい。
    畠中局長:
    ロシアは現在、ODAの対象国ではないので、別途対応している。


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