経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

日本ロシア経済委員会(委員長 河毛二郎氏)/10月2日

ロシア極東長期発展プログラムと日本に対する協力の期待


ロシアでは、「1996〜2005年における極東ザバイカル地域経済社会発展連邦プログラム」(極東長期発展プログラム)が本年4月に政府の承認を受け、その後大統領プログラムのステータスを獲得し、実施段階へと移行した。プログラム実現に対する日本側の関心は高く、本年3月の日ロ経済合同会議でもテーマの一つとして取り上げている。日本ロシア経済委員会では、プログラムの策定責任者であるグランベルグ経済省付属生産力配置経済協力会議議長を招き、プログラム実現に向けた具体的取り組みについて説明を聞いた。以下はその概要である。

  1. プログラムの目的と位置づけ
  2. 3月の日ロ経済合同会議でのディスカッションの結果、プログラムの内容がより明確化され、4月の政府承認に向けた大きな一助となった。
    プログラムの目的は、地域内に賦存する豊富な各種天然資源と太平洋への重要な輸送拠点としての利点を背景にして、労働力の定着と経済構造改革を促すことにより、アジア太平洋経済圏への参入をはかることにある。そのため、対象地域をザバイカル(バイカル湖以東)地域にまで広げた。しかし、それで十分ということではなく、現在、シベリアを対象とした新しい連邦プログラムの策定も進んでいる。
    極東長期発展プログラムの特徴は、連邦レベルで策定されている68の分野別プログラムを調整・統括する役割を担っていることと、中央と地域の協議によって策定されたことにある。
    プログラムは、約20ある地域別プログラムの中で唯一、大統領プログラムのステータスを付与されている。

  3. 実施段階とサブプログラム
  4. プログラムは3段階から成る。第1(1996〜1997)では危機克服、第2(1998〜2000)で社会・経済の安定、第3(2001〜2005)で安定成長への移行に向けた措置がとられる。
    柱となるサブプログラムは、以下の4つである。

    1. 社会・経済危機克服の緊急措置
    2. 自然災害被害の克服、電力供給の改善、電力・熱料金ならびに輸送価格体系の調整といった措置がすでにとられている。

    3. 構造改革
    4. 主眼は、
      1. 地域特化産業(漁業、林業、鉱業)の発展と特にその加工部門の発展、
      2. 軍民転換、
      3. 輸送インフラ整備
      である。軍民転換は最も難しい課題であり、日本の専門家のアドバイスを受けて実施したい。エネルギー部門では、サハリンの石油ガスの生産増加により、地域自給率の上昇と輸出が見込まれている。

    5. 住民の雇用と社会保障
    6. 人口流出の防止に向け、住民の収入増加、地域南部の住宅建設の強化等の措置がとられる。

    7. アジア太平洋地域経済への参入
    8. (1)外資導入のための優先プロジェクトの選定、(2)法基盤の整備という2つの基本方向がとられる。
      最優先プロジェクトは、サハリン州の石油ガス開発と地域の輸送インフラ整備(特に港湾)である。この他、カムチャトカ州の金、サハ共和国のダイヤ、ハバロフスク州の木材、極東海域の漁業資源等の開発や軍民転換のプロジェクトがある。優先プロジェクトリストには、外国の意見が十分反映されていないので、今後協議を行ない、修正していく予定である。
      法整備面では、現在下院で、生産分与法の修正法案、経済特区法案、外国投資法案等を審議中である。また、極東国境地域の特別地位法案や天然資源担保法案も準備されている。しかし、当プログラムに関連する部分については、特別法を制定することが適切と考える。生産分与法も、修正法案の早期採択が難しければ、サハリンプロジェクトにのみ適用される特別法を作るとの考えもあり得る。また、経済特区の特別法については、すでに前例もあるため、制定が可能だろう。

  5. プログラム実施のための管理機構
  6. プログラム承認後5カ月たつが、管理機構はまだできておらず、早期に実現したい。管理機構は理事会と事務局から成り、理事長を誰にするかが争点となっている。極東側は第一副首相を提案したが、政府側は経済省次官に変更してきた。多くの省庁が関与するプログラムなので、理事長は大臣より上のランクにすべきであり、副首相ということで再度政府に働きかける予定だが、恐らくそれで承認されるだろう。事務総長には専任の経済省次官を提案している。
    また、政府は、資金確保と運用管理を目的とした極東ザバイカル復興開発基金の設立を承認した。

  7. 資金面
  8. プログラムに必要な資金総額は 371兆ルーブル(約 750億ドル)で、うち新たに財源確保が必要なのは 114兆ルーブルである。
    資金源の内訳は、連邦予算25%(注:大統領令ではIMFや世銀からのローンの優先割当を規定しており、それを含む)、外資25%、地域内資金50%(地方予算、債券、担保基金、企業の自己資金など)を予定している。
    現在、97年度予算案が審議中であり、連邦予算の中に初めて、プログラム実施のための予算項目が作られたことを評価するが、政府の提示額は満足のいくものではない。また大統領令で明記された、国際金融機関からの資金の優先的供与は、まだ実施されていない。
    対象地域が一丸となって中央政府に予算獲得やプログラム実現措置を求める政治勢力ができていることを評価したい。

  9. 日本の協力に対する期待
  10. プログラムはすでにスタートしており、87年の極東プログラムのように忘れ去られることはあり得ない。管理機構ができればさらに進んでいくだろう。プログラムの施策一覧はあくまでも、今後の作業や関係者との交渉を進めるためのベースである。
    日本経済界の関心を重視しており、具体的な協力形態として、プログラムの履行状況を日本側の視点でモニターし、分析するシステムの構築を提案したい。日本の協力によって、プログラムの質が向上し、経済交流促進のための新たな可能性が生まれるものと期待している。


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