経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

今後の日米協力を考える部会(部会長 上原 隆氏)/10月15日

米国の対アジア外交と大統領選挙


アメリカ委員会の「今後の日米協力を考える部会」では、アジア・ソサエティのニコラス・プラット理事長より「米国の対アジア政策と日米関係の今後」について説明を聞くとともに、懇談した。
以下が、その概要である。

  1. プラット理事長説明要旨
    1. 大統領選の争点(アジア問題)
    2. 今回の大統領選では、外交政策の内容は争点になっていない。共和党は、現政権の外交手法を批判している。特に政権初期の段階で政策がちぐはぐしていたことを問題視している。
      先月ワシントンで、共和・民主両党のディベートが行なわれた。アマコスト前駐日大使(ブルッキングス研究所理事長)がモデレーターを務め、共和党からダグ・パール(元NSC部長)、ゼーリック(元国務次官)、民主党からボー・カッター(前大統領特別補佐官)、スティーブ・ソラーズ(元下院アジア太平洋小委員長)の各氏が参加した。以下は、ここで取り上げられた主な問題と、それらに対する両党の立場、そして今後の政策の見通しに関する私見である。

      (1)中国
      中国を引き込む(engage)べきか、封じ込める(contain)べきかについて、両党は引き込むべきという見解で基本的に一致していた。中国は世界にとって、戦略的、経済的に重要であり、日米中の関係はアジア太平洋地域の安定を維持する上で必要不可欠というのがその理由であった。
      中国に関係する3つのコミュニケ(72年の上海コミュニケ、79年の国交樹立、82年の武器売却)を、今後とも米国の対中政策のベースとしていくという点で、両党の政策方針に相違はなかった。
      しかし、中国・台湾をめぐる事態の変化に応じて、政策を変更していかねばならない。最も顕著な変化は台湾での民主化の進展であるが、これをどのように政策に反映させるかについて、両党とも明確な考えはないようだ。中台、米中関係の改善が重要であるという点では考えが一致していた。

      [私見]
      来る選挙でどちらが勝っても、米中間にハイレベルでシステマティックな関係が築かれるだろう。米中首脳の相互訪問が検討されており、関係改善のプロセスは進んでいるが、内容的には難しい面が多い。それは、中国がナショナリスティックなムードにあるためだ。中国は現在移行期にあるため、イデオロギーが不安定になっており、自信が揺るぎ始めている。中国の権力構造の下部層は自由度が高いが、上部層は人権問題等でタフな態度をとり続けるだろう。WTO加盟に関しても、米国に譲歩を求め続けると思われる。
      両党とも、対中MFN更新には肯定的であり、今後も中国に対するMFNは継続的に与えられていくだろう。

      (2)日本
      日本が米国の外交政策上中心的な位置を占める重要な国であるという点で両党の意見は一致していた。
      ただし、クリントン政権がとくにその初期において、対日政策の面で、経済・貿易問題を重視して、安全保障を副次的に扱ったという点を共和党は批判していた。
      最近の日本はリストラや規制緩和のプロセスに緩みが見え始めているため、開放的・競争的な市場を目指す方向から逸れて、輸出主導型の経済成長に戻るのではないか、という懸念が両党から表明された。

      [私見]
      日米の政治・安保関係は今後とも継続的に改善が図られ、緊密度を増していくだろう。
      米国は、沖縄の米軍基地の位置づけは再調整するだろうが、在日米軍は米国の前方展開戦略上必要不可欠なため、日本政府との合意の下で、在日米軍そのものは維持するだろう。チャーラマーズ・ジョンソン教授が、米軍の投入(Projection)のために必ずしも前方配備は必要ないと言っている。たとえジョンソン教授の考えが技術的に正しくとも、政治的には米軍のアジアにおけるプレゼンスは引き続き重要である。

      (3)朝鮮半島
      共和党は北朝鮮への米国の対応は寛大すぎると批判したが、共和党が政権についても、一旦調印したものは守ると明言した。

      [私見]
      次の政権も現在の政策を維持し続けるだろう。KEDOの枠組みの中で政策を進めることが、朝鮮半島の安定維持にとって重要である。

      (4)WTO、APEC
      中国のWTO加盟については、共和党が政治的な側面にも配慮すべきとするのに対し、民主党は経済の観点からだけで対応すべきと主張していた。
      両党ともAPECの存在を高く評価していた。

      [私見]
      今年のAPECフィリピン会議では、これまでのプロセスをもっと活性化させることに力を注ぐべきである。政府と民間がより緊密な関係を構築するための舞台はすでに整っているので、今後はこれをうまく動かしていくことが肝要だ。主宰国のフィリピンは、このことをよく認識しているので、大いに期待できると思う。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    前回選挙で共和党が大勝したが、その後ドラスチックな変化はあったか。
    プラット理事長:
    共和党は、94年中間選挙における大勝利を過大に評価してしまった。国民が大改革を期待しているのだと錯覚し、福祉政策の面などで強硬にやりたいことをやりすぎた。あまりに強引な共和党のやり方に、国民が否定的な反応を示し始めている。
    クリントン政権は、当初明確な政策を持っていなかったが、財政改革、歳出抑制、小さな政府の実現など、共和党の掲げる政策の中から、採用すべきと判断したものを政策に反映させてきた。共和党は株を奪われ、悪いイメージが前面に出る結果になった。


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