経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

防衛生産委員会(座長 西岡防衛生産委員会総合部会長)/10月1日

平成9年度防衛予算概算要求説明会を開催


冷戦後のわが国の安全保障に関しては、昨年策定された新防衛大綱の下で、新中期防衛力整備計画(平成8年〜12年)を着実に実施することが最重要の課題となっている。一方、財政事情が厳しさを増す中、新たに沖縄米軍基地の移転問題が浮上するなど、わが国の防衛力整備を着実に進める上での課題は多い。防衛生産委員会では、防衛庁の佐藤譲経理局長を招き、平成9年度防衛予算概算要求について説明を聞いた。以下は佐藤局長の説明の概要である。

  1. 概算要求の背景と課題
  2. 新防衛大綱は、新たな内外の諸情勢を踏まえ、各種事態に対応できる安全保障環境の構築を明示し、わが国として保有すべき防衛力、それに必要な機能の充実と質的向上、合理化・効率化・コンパクト化の方向等を打ち出した。冷戦後の日米安保体制についても、4月の日米共同宣言で再確認が行なわれた。
    今回の概算要求の第1の課題は、新中期防衛計画の2年目ということで、所要の事業を要求に盛り込むことである。第2の課題は、自衛隊の持つ機能が十分に発揮できるよう、その足腰を強化することである。第3の課題は、沖縄の基地問題の解決に向けた取り組みである。沖縄基地問題の経費については、従来の防衛予算とは別枠で確保しないと、沖縄基地問題と防衛力整備の双方に支障をきたすことになると思う。

  3. 概算要求の概要
    1. 対前年度予算2.88%の伸び率
    2. 平成9年度の防衛予算概算要求は4兆9,850億円で、対前年度予算に対する伸び率は2.88%となり、厳しい内容であると認識している。防衛関係費は、人件・糧食費、歳出化経費(正面装備等)、一般物件費(日米特別協定に基づく支出を含む)から構成されるが、防衛費全体が抑制される中、人件費と特別協定に基づく支出増が他の支出を圧迫している。過去の契約に基づく歳出化経費については、正面装備の 390億円の繰延べが必要となるが、金利負担については国で手当てをするつもりである。

    3. 即応予備自衛官の導入
    4. 従来の概算要求と大きく異なる点は、新防衛大綱の目玉である即応予備自衛官の導入である。新防衛大綱では、陸上自衛隊の編成定数が前大綱の18万人から16万人となり、16万人の内1万5千人が自衛官OBから募集する即応予備自衛官により充足される。9年度は約1,400人の即応予備自衛官の導入を予定している。即応予備自衛官は従来の予備自衛官とは異なり、第一線の要員として防衛出動、災害派遣、PKO等の任務に加わる。即応予備自衛官の多くは普段は企業に勤務しており、年間30日程度の訓練が課されることから、負担増となる派遣元企業等への対応を検討中である。

    5. 正面装備等の防衛力整備
    6. 正面装備については、新中期防衛計画の2年目の所要事業を盛り込んだ。主要な正面装備では、陸上自衛隊の新小型観測ヘリコプターと新連絡偵察機(LR-X)の調達着手、海上自衛隊の訓練支援艦の調達およびP-3C対潜哨戒機の画像情報収集機への改修, 航空自衛隊のF-2支援戦闘機の調達とF-15要撃戦闘機の近代化のための改修等が盛り込まれている。
      情報・指揮通信機能に関しては、来年1月に発足する情報本部の機能の強化と要員の増加、新中央指揮システムの整備を盛り込んでいる。
      教育・訓練については、これこそが自衛隊の能力発揮の基本であるにもかかわらず、予算削減の影響で、7年度に部隊訓練が大幅に削減された。9年度は部隊訓練の回復に努めるとともに、米国での90式戦車の実射訓練等も充実させたい。
      研究開発では、対潜ヘリコプター(SH-60J)の能力向上、軽対戦車ミサイル(XATM-5)の開発に着手する予定である。これらを含む研究開発予算は1785億円で、防衛予算に占める研究開発費のシェアは 3.6%になる。
      災害派遣対策については、阪神・淡路地震以降、自衛隊としても力を入れている。特に、自衛隊の足腰を強化する観点から装備品の充実に力を入れ、各種トラックを1652両導入する予定である。
      新防衛大綱ではより安定した安全保障環境への貢献が新たな役割として明示されており、防衛外交の推進という観点から、安全保障対話の充実のための予算を盛り込んでいる。
      その他、ロシアはわれわれの持っていない技術を用いた戦闘機を保有しており、ロシア製のスホーイ27戦闘機の性能を確認するため、航空自衛隊のパイロットをロシアに派遣し実地で教育をしてもらう予定である。このようなことが可能になったこと自体に時代の変化を感じる。
      わが国の防空システムの研究では、TMD(戦域ミサイル防衛)に関して、8年度に4億円強(後年度負担を含む)の調査費を盛り込んだが、9年度にさらに1億 600万円の調査費を計上している。

    7. 沖縄基地関連
    8. 沖縄の米軍基地の移転等に関しては、予算編成過程で重点的に検討することが閣議で了解されている。今後、防衛の概算要求とは別枠で、内容をつめて予算措置をとることになる。また、他の基地の周辺対策についても、前年度予算に比べ増額要求を出している。  歳出化経費の繰延べや沖縄基地関連で多くの課題を抱えた平成9年度概算要求となっているが、財政当局の対応には非常に厳しいものがある。予算成立に向け、関係者の理解と協力をお願いしたい。


くりっぷ No.42 目次日本語のホームページ