経団連くりっぷ No.42 (1996年10月24日)

国際文化教育交流財団(理事長 豊田章一郎氏)/10月11日

スウェーデン国王ご臨席の下に、創立20周年記念特別講演会を開催


国際文化教育交流財団の創立20周年記念特別講演会がスウェーデン国王カール16世グスタブ陛下のご臨席の下に開催された。以下は、当日のプログラムの概要である。

  1. 開会挨拶
    −西尾信一国際文化教育交流財団理事(第一生命保険会長)
  2. 当財団は、わが国経済が経済再建から高度成長を迎えた時期に、経済界のリーダーとして経団連の第2代会長を務められ、わが国の貿易・資本の自由化の実現に先導的役割を果たされて日本経済発展の基礎を築かれた、故石坂泰三氏の業績を末永く顕彰するために、1976年に設立された。爾来20年、当財団は海外諸国との文化・教育交流事業を地道に行なってきている。
    具体的には日本の大学院生 129名を留学生として送り出し、世界32カ国 204名の来日外国人大学院生及び東アジア・東南アジア諸国からの来日大学生 154名に奨学金を支給してきている。また、世界的文化人類学者レビィ・ストロース氏などの講師をむかえた講演会を開催するなどして、グローバルな視野からの国際相互理解の増進に寄与してきた。今後とも息の長い、地道な活動を行なうために一層のご支援・ご協力をお願いする。

  3. 講師紹介
    −根岸眞太郎国際文化教育交流財団評議員(ボーイウカウト日本連盟相談役)
  4. 財団創立20周年の記念事業を行なうとの話が出たときに、故石坂氏のご長男より「おやじはボーイスカウトをこよなく愛していたから、ボーイスカウトのことを話してくれる人」ということで、世界スカウト機構事務総長のジャック・モレイヨン博士に特別講師を依頼し、本日の記念特別講演会でご講演願うこととなった。
    本日はまた、世界スカウト財団名誉総裁のスウェーデン国王カール16世グスタブ陛下のご臨席を仰いでいる。

  5. 「冷戦後世界の人道問題」
    −ジャック・モレイヨン世界スカウト機構事務総長
  6. 故石坂泰三氏は日本の偉大なビジネスマンというだけではなく、本当のスカウトマンであり、語学力を駆使して内外のスカウト活動に尽力された。
    本日は私の国際赤十字委員会前事務総長と世界スカウト機構事務総長の経験を踏まえて、戦争と教育分野での1990年代の特徴をまず話したい。
    新たな紛争の多くは冷戦終了後起こってきている。紛争地においては、前線というものはもはや存在せず、戦闘員と非戦闘員の区別も明確でなくなっている。人権が無視され、女性が多くの場合最初の犠牲者となる。世界には 2,300万人以上の避難民がおり、毎年2万人以上、その多くは子供であるが、地雷で死傷している。テロや核の問題もある。これらは暴力性が人間性の一部であり、人間のモラルが科学や技術の発展に追いついていないことによる人間自身の問題である。
    この人間性への課題に対する答えが教育であるが、これは国際的で人道的な法律の知識の普及で済ませられるものではない。偉大な文明が共通に持つもの、イエス・キリストが希望、信頼、愛と述べたものが必要である。ユダヤ教は希望に、イスラム教は信頼に、キリスト教は愛に重点を置いたが、他の価値を否定した訳ではない。これらの価値を他の人々に注ぐことが重要である。
    若人には明日は良くなるという希望、人間関係における丁寧な扱い、寛容とコミュニティの理解を必要としている。それは家族、学校、自由時間の場で必要であり、これは教育により可能となる。人格形成としての教育、価値獲得としての教育、社会奉仕としての教育、自立としての教育がある。スカウト活動はこれらの要求に部分的であるが応えうるし、1907年以来3億人以上の人々が参加し、現在 2,500万人以上のスカウトが活動している。
    いずれにしろ、個性発展のための教育が地球村が共存するうえでの成功の鍵を握っており、学校外の活動に政府もコミュニティも重点を置くべきである。

  7. 「21世紀の世界システムと日本の役割」
    −田中明彦東京大学東洋文化研究所助教授(財団第2回1977年度奨学生)
  8. 冷戦後といわれるが、そのキーワードは世界システムの重要な側面をすべてカバーしているわけではない。現代の転換期の特徴を一言でいえば、「相互依存が進展する中でアメリカの圧倒的優位も終わるとともに冷戦も終わった」ことであり、世界システムが「新しい中世」の方向に向かっていることである。
    現代は主体の多様性、主体間の関係の複雑性、イデオロギーの普遍性という点でヨーロッパの中世に近似しており、権威と権力が交錯する複雑な国際政治と種々の主体への暴力装置の分散が見られる。
    世界は民主主義も市場経済も成熟した欧米等の「新中世圏」、国家が決定的主体だが民主主義も市場経済も十分に成熟していない「近代圏」、基本的秩序が存在せず、クーデターと虐殺が多発する「混沌圏」、の3つにわけてみるとよい。「新中世圏」内部では国家間戦争は考えられず、「近代圏」が関係する場合は国家間戦争があり得る。しかし、「混沌圏」では国家自体が存在しないので内戦しか存在しない。
    このような形で20世紀末から21世紀にかけての世界システムを理解したうえで、世界全体にとり日本はいかなる役割を果たすべきであろうか。第1は「近代圏」の繁栄の実現と安全維持への努力を行なうべきである。第2は「混沌圏」における内戦終結と国家建設への援助を行なう必要がある。第3は「新しい中世」世界の新しい知識の創造に先導的役割を果たすことである。


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