経団連くりっぷ No.45 (1996年12月12日)

今後の日米協力を考える部会(部会長 上原 隆氏)/11月28日

小康状態か成熟化の始まりか
−日米経済関係は良好に推移


通産省通商政策局の柴生田米州課長より、今後の日米経済関係について説明を聞き、懇談した。

  1. 柴生田課長説明要旨
    1. 日米関係の重要性
    2. 日米関係は最も重要な二国間関係の一つである(日米のGDPの合計は世界のGDPの合計の約45%)。
      対アジア・中国政策、地球規模の課題、26分野に及ぶ「コモン・アジェンダ」、来年12月のCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)をはじめとする環境問題への対応、安全保障など、日米両国が協力して取り組むべき課題が増えている。両国はWTOやAPECなど多国間協議の場も活用しつつ、政策協調、協力関係強化に努めていかねばならない。

    3. 日米経済関係の現状
    4. 日米間の貿易インバランスは縮小傾向にある(対米貿易黒字が20カ月連続して対前年比縮小)。対日貿易赤字は93年の549億ドルから96年上半期は141億ドルに減少し、ピーク時の4〜5割減となっている。この要因として、米国の財政赤字削減や日本の海外生産拡大が考えられる。
      保険など未解決の分野が残っているが、自動車、半導体等大きな通商問題が決着して両国に安堵感が広がっている。
      現在米国経済は好調であり、米国産業の自信回復を促している。景気の加速化にブレーキがかかって、2%強の成長が当分続くものと思われる。インフレ率も低く、財政赤字は縮小している。
      米国の景気拡大が長期化するのに伴い、一時強かった日本脅威論は現在後退している。代わって中国に対する関心が高まっている(96年6月と8月には中国が最大の対米貿易黒字国)。
      現在の良好な経済関係が単なる小康状態であるのか、あるいは日米関係成熟化の始まりであるのか、しばらくは様子を見る必要がある。

      米国の主要経済指標

    5. 第2期クリントン政権の誕生
    6. 第1期クリントン政権の93年1月(日米包括経済協議の開始)から95年6月(自動車協議の決着)まで、日米関係は激化した。当初クリントン政権は輸出と雇用の増大を目標に掲げ、日本の市場開放を強く求めてきた。この時期米国の通商政策は結果を重視し、具体的な数値目標の設定を求めることに主眼を置いていた。
      95年7月以降は安定への移行期である。大統領選を控え、米政府は日米通商交渉の実績を強調し、合意内容の実行、監視に関心をシフトさせた。
      第2期クリントン政権の対日政策がどうなるかは、米政府の主要ポストに誰がつくかによって大きく異なるので、現時点ではわからない。
      今回の米国政選挙の結果(クリントン大統領の再選、共和党の上下両院での過半数維持)は、米国民が現状維持を選択したことを意味する。
      第2期でクリントン大統領は歴史に名を残すため、外交政策を重視し、とくに対中政策に力を入れるのではないかとも言われている。中国のWTO加盟が米国の対アジア政策の当面の最大のアジェンダであろう。対日政策は、米国・アジア関係の安定維持という大きな枠組の中に位置づけられる。
      議会の中には、依然としてWTO警戒感が強いので、米政府は議会への啓蒙活動を行ないつつ、当面は二国間交渉も重視していくだろう。

    7. 日米新政権下での日米経済関係の方向
    8. 対中関係、とくに中国のWTO加盟について、日米両国がいかに協力し対処するかは重要な課題である。中国を孤立させることなく、世界経済システムに適切に取り込んでいく必要がある。このことはAPECフィリピン会議でもコンセンサスができている。
      貿易インバランスの縮小や米国産業の自信回復により、短期的にはジャパン・バッシングが起こる可能性は低い。
      今後、個別の通商問題はできるだけ国際ルールに基き、政治問題化させずに処理していきたい。その際、WTOのメカニズムを活用しつつ、透明な形で解決を図りたい。

  2. 懇 談
  3. 経団連側:
    規制緩和と競争政策、通商政策と競争政策の関係はどうか。
    柴生田課長:
    競争政策が貿易に与える影響と、貿易措置(反ダンピング、相殺関税等)が競争政策に与える影響の両方をスタディすべきというのが日本の立場であるが、米国政府には、後者について議論することは好ましくないとの意見もあると聞く。

    経団連側:
    ITAの見通しはどうか。
    柴生田課長:
    先進国の間では、関税撤廃による自由な情報通信市場の創出という方向性は一致している。WTOで討議されているが、途上国側から例外品目や過渡期間の設置を求める声があがっている。一方、先進国の一部には、関税が撤廃されても非関税障壁などで効果が出ない恐れがあるので、WTOにコンサルテーションの場を設置してはどうかとの意見もある。APECフィリピン会議では、柔軟性を認めるという留保はあるものの、明確にWTO閣僚会議での妥結を求める首脳宣言が出された。


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