経団連くりっぷ No.50 (1997年 2月27日)

日タイ貿易経済委員会(委員長 瀬谷博道氏)/1月31日、2月3日、4日

第14回日タイ合同貿易経済委員会に向けて勉強会、結団式、チャチャイ元首相との懇談会を開催


日タイ貿易経済委員会(委員長:瀬谷博道旭硝子社長)では、第14回日タイ合同貿易経済委員会(2月13日、14日、タイのホアヒンで開催。概要は本号12頁のサマリー参照)に向けて、タイの政治・経済の状況に関して、勉強会(1月31日開催。講師:原洋之介東大教授)、結団式(2月4日開催。講師:恩田宗前駐タイ大使)を開催した。また、タイ政府の特使として来日したチャチャイ元首相との懇談会(2月3日)を開催した。以下はその概要である。

  1. 原東大教授説明要旨
    1. タイの特徴を歴史的に見ると、外文明を率直かつ見事に受け入れる能力があることと、商業的才能に恵まれていることである。華僑も完全にタイ社会に一体化しており、他国に見られるような差別はない。

    2. タイ政府は1960年代に輸入代替政策を採ったが、特別の産業政策は行なわず自由主義的開発政策をとった。1980年代以降は積極的に外資を導入して、輸出産業育成に努めている。

    3. 1987年以降GNPに占める投資の比率が上昇し、1991年には44%に達した。しかし、貯蓄比率は33〜35%で頭打ちとなっており、国内の貯蓄不足がGNP比10%の経常収支赤字になっている。その大部分を短期資本の流入で賄っている。

    4. 短期資本流入を維持するために、金利を高めに維持している。そのためバーツの過大評価が起こり、国際競争力を削いでいる。さらに、外資流入に伴い、過剰流動性が生じている。これが不動産投資に回ってバブル現象を発生させている。

    5. バブルを収束させるには、金融・税制面から思い切った政策が必要だが、タイだけで行なうと資本の流出や、国際競争力の低下を招く恐れがある。しかも、連立政権のため思い切った政策が取れない。ASEANの中での政策調整が必要とされる。

    6. 所得分配の悪化も問題である。タイのジニ係数は46.2%であり、インドネシアの31.7%、フィリピンの40.7%より悪くなっている。国民の間に貧富の格差拡大に対する不満が広がっており、昨年末には首相府に直訴する事件も起きた。

  2. 恩田前駐タイ大使説明要旨
    1. タイの政治は、92年9月のチュアン政権以来、小党がイデオロギーではなく、人的関係や地縁、利害関係で連立政権を組んできた。したがって、民主主義的な選挙制度、自由主義経済、国際協調路線等の枠組みは維持されており、政権は不安定ながらも、政治的には安定している。その中で、王室の果たしている役割は大きい。
      タイは1930年代から、立憲国家として独立を維持してきたので、周辺諸国に比べて法制度は整備されている。しかし、連立政権であるため、基本的な政策をテキパキと決められないという難点がある。

    2. タイ経済は、輸出不振、国際収支の赤字、株価の低迷など経済成長に陰りが見え始めており踊り場にきている。しかし、他の東南アジア諸国も同じような調整期にあり、技能労働者の不足、貧富の差、環境、インフラ不足、賃金上昇による輸出競争力の低下などを克服すれば、再び力強く発展するだけの余力はある。

    3. 教育環境をみると、日本人の45%が大学教育を受けているのに対して、タイでは13%にとどまっている。製造業を発展させるには、この数字を2倍にする必要がある。

    4. 日タイ関係は引き続き良好で、日本のプレゼンスも大きい。たとえば、タイの製品輸出の25%が日系企業によるものであり、税収の10%が日系企業からのものである。

    5. タイで生活する上で留意しなければいけないのは、女性の進出や外国人への対応など、タイのほうが日本よりも欧米に近い分野が多いということである。タイのみならず、東南アジア諸国は欧米の価値観に乗っている。

  3. チャチャイ元首相説明要旨
    1. チャワリット政権は昨年12月の発足以来、金融インフラ整備(特に銀行の経営健全化)、国公営企業の民営化、貯蓄の有効利用、税制構造改革など新たな経済政策を推進している。
      財政赤字はGDPの2.2%に抑制されており、経済の安定性維持のための基本的条件は整備されている。500億バーツの歳出削減と緊縮政策により、財政のバランスをとって経済成長を持続させたい。

    2. 日本はタイにとって重要な経済パートナーである。96年は、ほとんどのアジア諸国が輸出不振に陥った。タイの場合、貿易相手国の経済情勢の変化、タイの水産加工品等に対する特恵関税枠の削減など外的要因の変化によるものであり、成長の余地は大きい。輸出構造は高度化しつつあり、化学製品、コンピュータおよび関連製品、通信機器等のハイテク分野の輸出額は急速に伸びている。日本にはタイの製造業の実力向上に協力してもらいたい。

    3. 投資環境の整備については、付加価値税還付の前倒し、原材料・中間財の輸出税の引き下げ等の措置を講じている。三洋電機・タイ工場の事件は、偶発的な事件である。政府としては再発防止に全力を挙げたい。しかし、この事件は労使間のよりよいコミュニケーションが重要であることを示唆している。

    4. 日本企業には、輸出関連産業に対する技術移転を念頭に投資を進めてほしい。人材育成センターを全国3カ所の工業団地内に設立する予定であり、日本の投資家にもこの計画に参加してもらいたい。


くりっぷ No.50 目次日本語のホームページ