経団連くりっぷ No.56 (1997年 5月22日)

首都機能移転推進委員会(委員長 河野俊二氏)/4月21日

「新東京圏創造のためのワーキンググループ」がスタート


首都機能移転推進委員会では、首都機能移転を進めていくうえで、移転後の東京圏のあるべき姿を検討していくことが極めて重要な課題となってきていることから、「新東京圏創造のためのワーキンググループ」を設置した。その第1回会合として、国土庁大都市圏整備局の高津計画課長から首都圏整備のあり方と今後の方向について説明を聞くとともに懇談した。
以下は高津計画課長の説明の概要である。

  1. 成熟していく首都圏
    1. 国土審議会首都圏整備特別委員会計画部会(部会長:伊藤滋慶大教授)では、昨年4月、首都圏整備の基本方針の検討に向けた第1段階として19回の会議における調査、検討を「首都圏基本計画への序論」にとりまとめた。部会の委員のなかには、東京圏の役割は高度成長期と違ってきたという認識が出てきている。一言でいうと、東京の外延化が一段落し、東京周辺が都市化から成熟化に向かっているなかで、東京への集中を抑制して地方を振興するという今までと同じような考え方だけでやっていけるかという疑問が出てきたことである。加えて、国民一人ひとりの生活の質が向上するかどうかが、今後重要となる。

    2. 国土計画の目的は、国土全体の効率的な経営を行なっていくことである。いかに上手に地域間あるいは世代間で分配するかが重要となってくる。いわば、成長の増分を調整すれば済んでいた時代から、ストックをいかに調整するかに重要性が移ってきている。全体としてゼロサムの関係となる場合には、どこかが増えればどこかが減る。このような、もう一つの課題に対しても国土計画は応えていく必要がある。
      東京圏(1都3県)は3,260万人、首都圏は4,040万人の人が住んでおり、新しい変化もこの地域から始まる可能性に期待したい。今後の変革において、首都圏の果たす役割は大きいだろう。将来は、広域的にとらえた東京の位置づけを、首都機能の移転先の都市との相互依存の枠組みのなかでも議論することが重要になっていくであろうと考えている。

  2. 全国総合開発計画(全総)について
    1. 国土全体の基本計画として全総がある。現在、新しい全総の策定に向けて審議が進められている。全総と役割分担している大都市圏、地方開発に関する計画(いわゆる「ブロック法」等)がある。

    2. 全総は現在まで4回策定された。1962年に一全総が策定された。69年には新全総がつくられた。74年の国土庁発足の後、77年には三全総が策定された。当時は「地方の時代」とも呼ばれ、定住構想が提唱された。87年策定の四全総では、多極分散型国土の形成を掲げ、全国10ブロックの地域ごとに基本的な整備の方向を示している。

  3. 首都圏基本計画の流れ
    1. 首都圏基本計画は現在までに4回策定されている(第1次―58年、第2次―68年、第3次―76年、第4次―86年)。それぞれの計画は当時の時代背景のもとに作られている。

    2. 第1次計画は、都市の過度の膨張を抑制するという趣旨で、既成市街地の周囲にグリーンベルト(近郊地帯)を設定した。
      既成市街地の膨張を抑制するため、東京都区部において工場、大学の新増設を制限する方向性を打ち出した。グリーンベルトは実際には十分機能しなかった。
      第2次計画は第1次計画を全面的に見直し、グリーンベルトに代えて都心部から半径50kmの地域を新たに近郊整備地帯として設定し、東京の中心部から郊外への都市化を順次図っていくための、いわば受け皿とした。
      第1次オイルショック後の第3次計画につづく第4次計画は、世界都市にふさわしい東京を整備するために、業務核都市への機能分散などを進め、東京の機能集積を活用しようという考え方が盛り込まれている。

  4. 首都圏の人口等
    1. 三大都市圏の転入超過数の推移をみると、東京圏は70年くらいまでは毎年20〜30万人の転入者があったが、バブル崩壊以降転入者数は、ほぼゼロに近い。今後、首都圏への転入者は以前のようには増えないだろうと考えられる。また、首都圏の人口は長期的には横ばい、または減少基調で推移することが予想される。

    2. 国内総生産に占める首都圏のシェアは約37%である。新しい産業を育み、労働力を吸収し、日本経済を牽引していく能力は、今後とも首都圏が相当程度寄与していくのではないかと考えている。

  5. 21世紀に向けた東京圏
  6. 東京圏の成熟化が進むなかで、60km圏においては、都市と田園という2つの地域特性を共に活かすことができないかと思っている。東京圏の成果をわが国全体がいかに受けとめるか、といった観点からの検討も重要になっていくのではないかと考えている。


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