経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

第12回東富士フォーラム/7月24日〜25日

21世紀の日本の針路を考える−日本再考−


7月24日から3日間、富士山麓の経団連ゲストハウスにおいて、会長・副会長、評議員会議長・副議長、委員長の総勢26名の参加を得て、第12回東富士フォーラムを開催した。フォーラムでは、基調講演が米沢富美子日本物理学会会長(テーマ:科学技術と社会のパラダイム転換−複雑系の視点から−)および中谷巌一橋大学教授(テーマ:21世紀の日本経済へ向けて)からあったほか、伊藤副会長を議長として、「国・企業・日本人のあり方を考える」「改革の実行をいかに加速させるか」「世界の繁栄にいかに貢献するか」と題した3テーマにつき活発な討議を行なった。その結果、「コーポレート・ガバナンスに関する特別委員会」(座長:片田哲也評議員会副議長)を新たに設置し、コーポレート・ガバナンスのあり方について引き続き経団連内で検討していくこととなった。以下は、各セッションの討議概要である。

討議 I
「国・企業・日本人のあり方を考える」

  1. 国のあり方
  2. これまでの日本の経済社会システムによる弊害を見直し、国際社会で通用する透明性を確保する一方、日本の良さを再認識し、国内的には規制撤廃・緩和による民主導の国家構築を、対外的には国益を重視した外交・安全保障政策を推進する必要がある。
    また、少子化問題が21世紀の日本にとって大きなテーマとなる。女性の活用を図りつつ、社会福祉の充実等の施策を講じて、子供を産みやすい環境を整備する必要がある。
    生活を豊かにしつつ省エネを実行する方法を見出すことが重要である。

  3. 企業のあり方
  4. コーポレート・ガバナンスについて十分に議論すべきである。経営者の意識向上が第一であるが、企業経営のチェック体制を再度見直す必要がある。株主重視の経営にシフトする必要はあるが、欧米のやり方をそのまま導入するのではなく、日本型経営システムの構築を目指すべきであり、監査役会の機能強化を図ることが現実的である。
    また、新産業新事業の育成を行なうなど、雇用の維持に努めるべきである。

  5. 日本人のあり方
  6. 日本人としてのアイデンティティーを確立するとともに、自分の意見をはっきり述べ、ディベートできる風土の醸成に努めるべきである。そのためには、平均的な人材を育てるという従来の教育方針を改め、創造的な人材育成のため、個人の特徴・特技を活かせる教育、教育制度の改革・教育予算の充実が必要である。

討議 II
「改革の実行をいかに加速させるか」

いわゆる6大改革ならびに税制改革を迅速かつ一体的に実行していく必要がある。
行政改革については、内閣機能の強化とともに、公務員定数の削減、地方自治体の改革にも踏み込むべきである。
財政構造改革は、来年度予算編成が山であり、旧国鉄債務の処理、国有林野事業への支出削減等を含む思い切った改革に切り込むべきである。
社会保障構造改革は、民間活力の活用等により、来るべき少子・高齢化時代においても持続可能な制度を構築すべきである。
金融システム改革は、公的金融システムの改革や金融関連税制の改善があってはじめて実効があがる。
教育改革は、心の教育、職業教育や生涯教育等の充実を図るべきである。
税制改革については、法人税の実効税率10%削減について年次計画を作るべきである。その際、直間比率の見直しが必要である。
また、こうした改革推進のための共通課題としては、
  1. 企業自身も景気維持のために努力すること(規制緩和の成果活用等)、
  2. 政府、与党は改革の実現に向けてより国民の理解と協力を得られるよう努力すること、
  3. 金融ビッグバン等に対応して、人材の流動化、年金ポータブル化等を図ること、
  4. 年金・医療改革、税制改革と併せて国民総背番号制の導入を検討すること、
等がある。

討議 III
「世界の繁栄にいかに貢献するか」

世界に開かれた日本の実現のためには、(1)高コスト構造を是正し、対日投資の拡大に努める、(2)留学生の受け入れを拡大するために、大学での学位取得方法の改善や、受け入れ体制を整備するとともに、相手国の大学に講座を寄付すること等を通じて相互理解を深めるべきである(寄付に関する税制の見直しも必要)。
また、ODA(政府開発援助)は軍事貢献ができない日本の世界貢献の柱である。援助分野における官民の連携が必要であり、途上国援助においても民間の活用を図る必要がある。
さらに、日本の科学技術を活かして、
  1. 環境、リサイクル技術(循環型社会の構築)、
  2. エネルギー対策(原子力技術、核融合技術の開発等)、
  3. 技術移転の分野、
において積極的に貢献していくべきである。

「コーポレート・ガバナンスに関する特別委員会」を設置

本フォーラムでの討議の結果、新たに「コーポレート・ガバナンスに関する特別委員会」(座長:片田評議員会副議長・資本市場委員長)を設置し、監査役制度の強化、取締役会のあり方、株主総会制度の見直し、会計監査人制度の強化と情報開示、株主代表訴訟制度の改正などについて検討していくこととなった。


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