経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

日タイ貿易経済委員会1997年度総会(委員長 瀬谷博道氏)/7月25日

産業構造の再編こそタイ経済の生きる道


日タイ貿易経済委員会は7月25日、97年度定時総会を開催し、96年度事業報告・収支決算および97年度事業計画・収支予算を原案通り承認した。また、当日は、来賓の末廣昭東京大学社会科学研究所教授から「要請されるタイ経済の構造調整」と題して説明を聞いた。
下記はその要旨である。

  1. 最近のタイ経済について、タイの新聞も日本の新聞も悲観的な見方をしている。少し前までいわゆる「経済ブーム論」を異常なまでに展開していたのとはまったく対照的である。こうした極端な論調のふれは、タイ経済に対する基本的視座を失うことにつながり、大いに懸念される。

  2. 96年11月の総選挙により誕生したチャワリット政権は、アムヌアイ副首相を中心とするいわゆる「経済チーム」を作って、経済自由化と規制緩和に取り組んだ。しかし、重要課題の1つであったバーツ防衛に失敗し、アムヌアイ副首相らは辞任、チャワリット首相自身の責任も問われている。

  3. チャワリット政権のもう1つの重要課題は憲法改正である。住民参加型の恒久的憲法にすべく、この8月にはいよいよ憲法改正委員会が開かれる予定で、国民の関心も高まっている。したがって、仮にここでも失態を演じるようなことになれば、政権自体が全面崩壊の危機に直面するだろう。

  4. こうした問題に隠れて、タイ経済の構造調整の必要性については十分な考察や議論が行なわれていない。例えば今、タイでは自動車が売れなくなっているが、これは流通制度や信用制度に問題があるためと考えられる。

  5. 96年には初めて輸出がマイナス成長を記録した。これは80年代の輸出を支えた繊維製品や冷凍エビ等の輸出が落ち込んだことに因る。しかし、だからといって、繊維産業やアグロ・インダストリー等のいわゆる斜陽産業を切り捨てよとの議論には私は反対である。現在も約250万の雇用を供給し、外貨の2〜3割を稼いでいるこれら産業を切り捨てれば、タイ経済の特質は失われる。構造調整を行なうことによって、これらはまだまだ輸出産業として生き残れる。

  6. 国際競争力低下の一因とされる賃金水準の上昇に関して、タイ政府は、現行の最低賃金制度を廃止して全国賃金委員会を設置し、統一的な賃金政策の導入を図ろうとしている。企業における人事労務管理は旧態依然としており、非合法な労働争議の件数が増大している。労働市場における需給のミスマッチも起こっており、労働問題はタイにとって重要な課題となっている。


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