経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

流通委員会(委員長 鈴木敏文氏)/7月16日

流通政策の今後の課題


流通委員会は、7月16日委員会を開催し、これまで企画部会(部会長:丹羽宇一郎伊藤忠商事副社長)において検討してきた「電子商取引の現状と課題」の中間とりまとめについて報告を受けるとともに、通商産業省の古田肇大臣官房審議官から流通政策の今後の課題について説明を聞くとともに懇談した。以下はその概要である。

  1. 丹波企画部会長説明概要
    1. 電子商取引(EC)の現状
    2. ECは情報技術を駆使して、製造業や流通業が、消費者ニーズに的確、迅速かつ効率的に対応することを可能にし、同時に、従来の商流や物流を変えていく効果を持っている。例えば、さまざまな情報のやり取りを電子化することによって、取引の迅速化・省力化・効率化を図ることができ、流通チャネルの合理化や在庫削減、物流コストの削減につながることが期待される。
      ECR(効率的消費者対応)に代表される企業間ECの取り組みは、取引を行なっている特定企業間や業界毎に、EDI(電子的情報交換)のための各種プロトコルの標準化が行なわれ、必要性に応じて進展しつつある。しかし、まだ情報の共有化が進んでいる企業の範囲は狭く、特に不特定企業間でECを行なえる環境は十分には整っていない。
      企業・消費者間ECについては、インターネット上に電子ショップ等が多く開設されつつあるが、ビジネスとして成り立つまでには至っていない。現在はまだ、消費者ニーズを探りながら、各種の運用実証実験を行なっている段階と言える。

    3. EC発展のための課題
    4. 今後ECが本格的に発展するためには、
      1. 大容量データを安全・迅速にやりとりできるネットワークや一般消費者にも利用しやすい簡易型パソコン等の情報端末の普及、
      2. 各種プロトコル等の標準化、
      3. 電子認証や電子決済のシステム整備、
      4. 電子公証制度、
      5. ECに対応した物流サービスの拡充、
      6. コンテンツの魅力を増し、EC独自の利便性の提供を行なうこと、
      7. 商慣行の近代化や取引の標準化、
      等が必要である。
      なお、この中間とりまとめの内容は、情報通信委員会情報化部会に対して報告し、同委員会「情報化の推進に関する提言」に反映された。

  2. 古田審議官説明概要
    1. 大店法の見直し
    2. 6年前の大店法改正の頃は、日米構造協議やトイざラス等の海外大手小売業の日本進出を契機として、日本国内の流通構造が市場の閉鎖性を高めているとして内外から批判があった。中でも大店法の規制については、かつては出店の手続に平均3.5年、時には10年もかかるという異常な状態にあった。これについては原則として1年以内に結論を出すよう、手続の改正を行ない、また、いわゆる「出店凍結地域」を解除するとともに、地方商調協等の不透明な運用を改善した。
      その後、これらの規制緩和措置によって大型店の出店競争が激化した。一種・二種合わせての新規出店届出数は、平成元年の794店から、平成4年には1,692店、そして平成8年には2,269店へと増加している。全体として郊外化、大型化が進むとともに、中心市街地における空き店舗問題も深刻化している。
      現在、産業構造審議会と中小企業政策審議会の合同部会で大店法の見直しのあり方について検討しているところであるが、規制緩和を基本に、手続き法としての大店法の問題点を検討願うこととしている。ただし、大店法の手続が新規出店にあたっての社会的摩擦回避の役割を果たしてきたことも見逃してはならない。

    3. 中心市街地の再活性化問題
    4. 大店法と併せて、中心市街地再活性化の問題が検討されている。自民党も調査会を設け、積極的に取り組んでいる。これまで通産省は、いわば点としての商業集積に着目して政策を進めていたが、今後は面的な展開を図りたい。すなわち、タウンマネジメント、つまりエリア全体の商業集積のあり方をどのようにマネージしていくか、という観点から、必要な制度・仕組みや人材育成について検討していく。
      また、商店街の活性化の問題だけでなく、学校や病院、各種公共施設も郊外に設置され、中心市街地の都市機能が低下している。関連各省庁が連携しあって、予算措置を講ずるだけでなく、総合的な都市政策の観点から、税制の手当てや各種規制緩和についても検討する必要がある。ちなみに、中心市街地再活性化策は、来年度向け予算編成の中で重点的に施策を行なえるよう、生活関連公共事業2,500億円の特別予算枠の内数として用意されている。

  3. 懇談
  4. 経団連側:
    中心市街地再活性化策として、商業集積の集客の要として物販以外の飲食業や娯楽産業との融合を図る必要がある。自治体自体の総合的な都市計画の立案やイニシアチブが必要ではないか。
    古田審議官:
    市街地活性化にかかわるそれぞれの担い手がやる気をもって取り組まなければならない。特に、地方自治体のイニシアチブは重要であり、その自治体を国が支える体制づくりが必要だ。

    経団連側:
    大店法による規制に関連して、地方自治体による上乗せ・横出し規制についてどう考えるか。
    古田審議官:
    かつて、大店法による規制よりも厳しい上乗せ・横出し規制が地方自治体によって行なわれていたことから、平成3年の大店法改正で、地方自治体による商業調整は、大店法の趣旨を尊重して行なうという条文を新たに設けた。その結果そのような規制は一掃されたと認識しているが、地方分権の流れのなかで、学者を中心に「地方自治体による規制は、その地域のown risk,own costで行なう限り問題とすべきではない」という考え方もある。一方、各地方毎に規制の程度・内容がばらばらでは混乱が生じ、地方自治体としても困るという問題も指摘されている。


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