経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

国土・住宅政策委員会(委員長 古川昌彦氏)/7月14日

都市型社会における都市づくりのキーワード


国土・住宅政策委員会では、7月14日、提言『土地の有効利用に向けた土地・住宅政策のあり方』について審議し、同提言は、22日の理事会を経て、政府ほか関係方面に建議された(本誌60号参照)。14日の委員会では本提言のとりまとめに先立ち、都市計画中央審議会基本政策部会委員の小林重敬横浜国立大学教授を招き、これからの都市政策のあり方について意見交換を行なった。以下はその概要である。

  1. 小林教授説明概要
    1. 都市政策のビジョン
    2. 都市計画中央審議会では、本年12月の答申を目途に都市政策のビジョンを策定中である。人口増加が終焉し、都市の拡大の鈍化、さらには高齢化や中心市街地の空洞化が指摘されるようになった現在は、人口・産業が都市へ集中した「都市化社会」から、都市化が落ち着き成熟化した「都市型社会」への歴史的転換期にあるといえる。これからの都市政策は「都市化への対応」ではなく、
      1. 既成市街地の再構築と都市間連携、
      2. 経済活動の活性化に寄与する都市整備、
      3. 環境問題など新たな潮流への対応、
      に視点を置き、施設立地、土地利用等に関し調整を行ないつつ総合行政を推進していく「都市の再構築」に主眼が置かれることになろう。
      そのためのビジョンとしては、フランスでは芸術文化発信型の都市づくり、ドイツでは環境文化発信型の都市づくりを進めているが、わが国には文化や環境を小さな単位で均整のとれた形で配する都市づくりがふさわしいと考えている。

    3. 既成市街地の再編・再整備の手法
    4. 既成市街地の再編・再整備においては、環境負荷の小さいコンパクトな都市づくりをすべきである。また、これまでのように、特定街区や総合設計制度など街区単位や敷地単位の制度による整備から、既成市街地の小さな敷地をまとめ、また街区を形成するための基盤を整備する施策へ重点を移す必要がある。
      容積率の指定の面で東京都心3区とマンハッタンを比べると、道路中心による街区面積に対して街区内で許容される延べ床面積が、マンハッタンの354%に対し東京は364%と、東京の方が許容される街区指定容積率は高い。ところが実現容積率で比較すると東京は222%、マンハッタンは239〜714%と指定容積率の充足率に格段の差がある。基盤整備を必要としない欧米諸都市と異なり、日本では既成市街地の基盤を整備しながら土地利用密度を上げなければならず、基盤整備に向けた積極的な公共投資が必要である。

    5. 都市政策の主体
    6. 都市政策のビジョンを実効あるものとするためには総合的な土地利用調整が必要である。国においては、省庁間の縦割りの是正が必要であるが、なかなか進んでいない。
      分権化を推進することにより総合調整機能を自治体にまとめることは有効な手段のひとつである。例えば神戸市の「人と自然との共生に関する条例」は、都市政策と農業政策との総合化を図ったものとして評価できる。イギリスやドイツでも都市的土地利用と農業的、自然的土地利用を一体的に秩序づけることが重視されつつある。
      国、都道府県、市町村、地区の各レベル間の調整に関しては、
      1. 国は、都市計画のガイダンスとなる計画、基準の策定を行なう、
      2. 都道府県は、拘束力のない大枠としての土地利用計画、根幹施設について定める、
      3. 市町村は拘束力のある計画、生活に密着した施設について定める、
      といった計画のあり方の再編成が必要である。従来のような都道府県に対する国の、市町村に対する都道府県の「後見的関与」は排除すべきである。同時に市町村都市計画審議会を法定化し、市町村が定める都市計画を増やす必要がある。そのためには都市計画決定手続の充実と実質化とともに、ファシリテーター、プランナー、デザイナーなど計画調整を進める多様な人材の育成が不可欠である。

    7. 開発許可の課題
    8. 開発許可については、行政手続の透明化を図った上で、開発許可基準の地域特性による多様化を図る必要がある。豊中市のようにまちづくり支援という形で積極的な行政参加が必要な場合もあろう。わが国の再開発地区計画は、従来の地区計画の枠内に止まっているが、イギリスのように行政と民間企業とで協定を結ぶ手法や、アメリカの共同開発のように土地を保有していない事業者が開発プランを提案できる共同開発の仕組みなどは参考になるであろう。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    広域的な観点での土地利用をどのように進めればよいか。
    小林教授:
    ロンドンではサッチャー政権が都道府県にあたるものを外し、国と市町村だけの関係にしてしまった。その上で市町村は連合してロンドン大都市圏の整備計画を策定し、国はそれを参考にロンドン大都市圏計画を立案する。日本では、首都圏整備計画のような大括りの計画と市町村の計画の間で調整が行なわれる仕組みがない。

    経団連側:
    ゾーンの単位はどの程度が適当と考えられるか。
    小林教授:
    従来の学校区の括りにこだわる必要はない。基盤整備の観点からすれば地区単位では小さすぎる。地区間競争の時代には基盤整備を進めたところには税収が入るような仕組みを考えるべきである。

    経団連側:
    コミュニティはどのように形成したらよいか。
    小林教授:
    団地内に料理などができる共有スペースを設けている東京の台場地区の住宅団地は「いろんな人と付き合える」ことが評価されている。これからのコミュニティはローカルコミュニティというよりテーマコミュニティとなっていくであろうが、手がかりになる場を作ることは必要である。

    経団連側:
    都市づくりにおける私権と公共の福祉との調整の方法はどうすべきか。
    小林教授:
    再開発をする際に、事業主体が住民の前に直接出て行き、反発を買うことが多い。ファシリテーターなど緩衝材となる人材の育成が必要である。ある部分では収用も実行せざるをえないと思う。


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