経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

首都機能移転推進委員会新東京圏創造のためのワーキンググループ/7月31日

21世紀の魅力ある東京圏の姿に関し
泉多摩美術大学客員教授より説明を聞く


「新東京圏創造のためのワーキンググループ」(座長代理:新藤清水建設開発営業部長)では、第3回会合として多摩美術大学の泉眞也客員教授を招き、21世紀の魅力ある東京圏の姿について説明を聴取するとともに懇談した。
以下は泉客員教授の説明の概要である。

  1. 21世紀の理想的な都市像
  2. 泉 客員教授
    1. 国土庁では、3年前から文化機能の整備による国際交流都市づくりに関する検討委員会を開いており、私がその座長をつとめている。同委員会では、文化都市としての東京の再生を検討しており、結果がまとまりつつある。首都機能移転により、東京の中心部にできる空地を活用して「文化首都東京」のプランを作成することを1つの狙いとしている。欧州では、すでに「文化首都」の試みが行なわれており、さまざまな文化的イベントが域内の各地で実施されている。

    2. 20世紀の東京圏を省みると、相応の成果をあげた時代だと位置づけられる。20世紀は「生産性」がモチーフであり、わが国はものづくりで成果をあげた。しかし、現在は大転換期にきている。21世紀にはコミニュカビリティ、すなわち「相互の主張をぶつけ合い、立場の違いを理解しながら握手できる能力」が重要になる。わが国をコミニュカブルな国に再編成することが大きな課題となっているのである。

    3. 理想の都市に近いのはストックホルムだといわれている。実に1830年から都市整備をはじめ、市が土地を買い占め、現在では8割以上の土地を市が所有している。理想的なかたちで環境を考えた都市づくりが行なわれている。
      他方、東京では私権が強調されたことから計画道路の整備もままならない。こうした点からも、首都機能移転は東京改造のチャンスである。

    4. 日本の人口は2100年には6,000万人になると予想されている。6,000万人でも江戸時代の人口の2倍である。ちなみに、江戸時代の東京は「東洋のベニス」と呼ばれていた。
      生物学的にいうと、日本で人間より大きな生物が生息できる数は40万頭であり、それ以上は環境に負荷をかけることとなる。生物学からいえば40万人が最適人口であるが、6,000万人でも環境に配慮した生活を確保できるであろう。

    5. 私は70年に「東南アジア2020」というレポートを作成した。このなかで、2020年には東南アジアが世界最大のマーケットになろうと書いて当時嘲笑を買ったが、今になってみると説得力のある予測であったといえよう。このように、50年先を予想するのは難しい。
      同レポートにおいて、2020年の東南アジアの中心はブルネイになり、世界の3大センターの1つになると予測した。その時、メリルリンチの人は、世界の人がある国か都市に投資するのは、(1)おもしろい人間がいる、(2)生活費が安い、(3)社会が安全で寛容である、という3つの要因が重要であると指摘していた。

  3. 東京を魅力的な都市にするために
    1. 前述の視点から、日本の都市は東京を含めて、
      1. リゾート(日本で通常使われる‘リゾート’ではなく、「しばしば訪れる場所、自分の気に入った場所」という意味)都市であるべきである、
      2. 観光を重視すべきである、
      3. ものづくりからムセイオン(若者を育てる場所という意味)国家になるべきである、
      と考えている。
      日本が魅力のない国家になってしまった1つの証明として、観光客の少なさがあげられる。日本には年間400万人の観光客が来るが、フランスは6,000万人、米国は4,500万人、スペインは4,000万人の観光客を引き寄せている。日本への観光客が何とか年間5,000万人にさせられればと思っている。
      しかし、日本は最近国際競争力が落ち、最新の調査では9位である。ちなみに、1位は米国、2位シンガポール、3位は香港である。

    2. 作家の井上ひさし氏は、かつて、21世紀の日本の理想像は、「世界が困った時に、アジア大陸のそばの島に住む人は貧しいけれども高貴な人たちだから意見を聞こうと言われる国」と語っている。
      問題はこういう日本とするために、東京のフィジカルな都市計画はどうあるべきかということである。
      世界銀行の予測では、東京圏は2050年になっても3,000万の人口を擁し、世界一の都市圏であり続けると予想しているが、世界の大都市のなかで、通勤に2時間もかかる都市は東京だけである。

    3. 通勤時間を少なくするための一案として、都市圏の真ん中に人が住み、その周りに緑地帯をつくり、その外にドーナツ状にオフィス地区をつくり、さらにその外を原野にする。こうすれば、理論的には通勤距離は短くなる。首都機能移転が行なわれれば、東京をこの「ドーナツ型都市」につくりかえるチャンスがくる。東京湾をとりまくインサイドのリングとアウトサイドのリングをつくるのである。オフィスやテーマパークはすべてリングの部分につくる。

    4. 東京湾のリングに接してどういう都市をつくるかは、カリフォルニアのサンディエゴからロスに至る都市が参考になる。このなかには数十のユニットがある。1ユニットは都市として独立できる30万人くらいがよく、東京湾だと20くらいのユニットがつくれることになる。米国カリフォルニア州のカーメルをはじめ、水と陸の接点、ウォーターフロントに位置するのが、人々が理想だと思う都市である。
      東京湾の港湾機能を湾外へ移転させ、ハブ空港をつくるなどして、首都機能移転を契機に、東京をベニスのような理想都市をめざして100年かけて変えていくことが今求められているのである。


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