経団連くりっぷ No.61 (1997年 8月28日)

WTOスタディ・グループ(座長 櫻井 威氏)/7月23日

WTOの現状と課題


WTOスタディ・グループでは、外務省の鈴木国際機関第一課長より、UR(ウルグアイラウンド)合意の実施状況、分野別自由化交渉とニューラウンドの可能性、新しい分野のルールメーキング等について説明を聞くとともに意見交換を行なった。

  1. UR合意の実施
    1. 農業分野では、UR合意に基づく関税引き下げ、国内助成の削減が各国で進められている。2000年には農業協定の継続交渉が開始される。農業委員会では、新ラウンドに向けて関税割当や国内補助金の削減交渉に関する問題点を整理したい国とそうでない国との間で綱引きが行なわれている。
    2. 加盟国のTRIM(貿易関連投資措置)協定およびTRIPS(貿易関連知的所有権)協定の遵守状況については、途上国等のモニタリングを強化していく必要がある。

  2. さらなる自由化
    1. 本年4月に金融サービス交渉が再開された。交渉の焦点は、(1)ASEANや韓国、主要ラ米諸国からUR終了時よりも進んだ自由化約束を取り付けること、(2)米国に包括的なMFN(最恵国待遇義務)の免除登録を撤回させることである。
    2. WTO発足後、ITAが締結されたが、これに続く新たな特定の自由化交渉分野を見つけることは難しい。
    3. 日欧は、新たな包括的ラウンドによって加盟国間の利害調整を行なうことが必要との立場を取っている。ITAの交渉により意を強くした米国は、短期で国益を反映することが出来る分野別交渉で1つずつ自由化を勝ち取っていく方針だ。UR合意の遵守で苦しんでいる途上国は、包括的ラウンドには慎重である。

  3. 新しい課題
    1. 「貿易と投資に関する作業部会」では、投資の自由化を求める先進国と投資を受け入れる途上国の権利をどのように調整していくかが焦点になる。OECDにおけるMAIの交渉結果が大きく影響して来ると思われる。
    2. 「貿易と競争に関する作業部会」では、競争政策の立場からの問題点整理を主張する欧米と、ダンピング防止税やセーフガード措置の濫用等が競争条件に与える影響についても併せて検討すべきとする日本、カナダ、途上国が対立している。
    3. 「政府調達の透明性に関する作業部会」では、96年に発効した政府調達協定の加盟国を拡大しつつ、政府調達手続の透明性を確保するための検討を行なっている。作業に慎重な姿勢を示すアジア諸国の理解を得ていかなければならない。
    4. 「貿易と環境」については、環境面での貿易制限に関してWTOのガイドラインを作成すべきとの立場を取る日欧と、紛争処理による解決を支持する米国、先進国の環境保護を盾にした貿易制限を懸念する途上国の利害が対立して議論が進んでいない。


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