経団連くりっぷ No.65 (1997年10月23日)

21世紀政策研究所/10月15日

第2回運営委員会を開催
「金融ビッグバンと日本経済」について意見交換


21世紀政策研究所は、第2回運営委員会を開催し、研究テーマ「金融ビッグバンと日本経済」の方向性について意見交換した。豊田会長は、冒頭「21世紀政策研究所が公共政策研究機関として正論を公表することにより世論をリードし、行政や立法府の政策立案に影響を及ぼすようにしていくべきである」と述べた。

  1. 当面の活動方針
    −田中直毅理事長
  2. 当研究所が今後取り組むべきテーマとしては、日本の経済改革の速度およびその実現内容、東アジアの経済変動に対する日本の役割の2点が重要である。
    前者については、日本の経済改革がどの程度のスピードで、何を実現したときに日本経済がどう変わるのかということについて総合的な絵が描けるような研究に仕上げなければならない。
    後者については、東アジアの通貨不安、金融システム不安を除去しないとアジアの経済システムが正常に機能しない。東アジアの経済調整は中期的なものと判断しているが、調整が長引けば、日本の金融機関の国際戦略やアジア依存型の日本経済に大きな影響が及ぶ。東アジアの経済秩序を作り上げるうえでの原則やサーベイランスの仕組み作りについての研究が重要であり、当研究所がこの役割を担わなければならないと考えている。

  3. 金融ビッグバンと日本経済
    −鹿野嘉昭研究主幹
    1. 金融ビッグバンは、第一義的には金融業界における競争促進を意味するが、金融システムという観点から捉えると、従来の銀行中心型から資本市場中心型の金融システムへと転換することを意味する。ビッグバンにより資本市場パイプが全面開放されると、証券化というグローバルな流れを追い風として、家計貯蓄の供給ルートは、銀行から資本市場にシフトすると見込まれる。
      外為法の改正は、空洞化効果を通じて大胆な金融構造改革の推進を促す仕掛けにもなっている。

    2. ビッグバンにより、金融機関による知恵比べ競争がこれまで以上に重要となり、投資家が自らのニーズに合ったものを自由に選択するという消費者主権が確立する。
      一方、銀行経営のあり方は市場で常時監視されることになり、金融機関経営者は市場と向き合って経営の舵を取ることが極めて重要になる。こうした市場から発せられる業務運営にかかわる見直し要請や経営チェック機能の高まりは日本の会社すべてに適用され、非金融法人のバランスシートの資本構成のあり方を変更させるだけでなく、企業経営権、経営監視・規律付け権など資本の提供に際し投資家に付与されていた各種の権限が機能するよう仕向ける効果を持つ。すなわち、ビッグバンは金融面から日本経済の構造改革を促すものであり、これを媒介として日本経済をグローバル化時代にふさわしい体制に改編していく。

    3. 昨年の秋以降、資本市場が正常に機能し始めていることを示す動きが徐々に広がっている。国際優良株が大きく値を上げる一方で、内需依存型非製造業の株価は低迷するという株価の2極分化が進んでいる。
      また先行き大きく業績が悪化すると見込まれる企業が発行した社債は暴落を余儀なくされており、わが国株式・社債市場は最近になってようやく、本格的な機関投資家の登場と期を一にするかたちで正常に機能し始め、市場では信用リスクを考慮した価格形成が広範化するようになっている。

    4. 金融市場を市場メカニズムが有効に機能する、透明で信頼できる市場とするためには、時価会計に基づくディスクロージャーの充実などを通じて、公正な価格の形成を保証することが重要である。

  4. 討論概要
    1. 金融機関やゼネコンの不良債権の処理を早めないと株式相場は活性化しない。期限を切って進めないと問題を引きずることになる。
      財政資金の投入が不良債権問題の抜本的解決につながるのかどうかについて、改めて検討する必要がある。
      ゼネコンなどは不良債権の償却を行なった結果赤字に転落すると公共事業の入札に参加できなくなるという問題がある。

    2. 金融関連三審議会で提示した改革で十分か。より大胆にスケジュールを早めて進めるべきではないか。金融サービス法の制定がまったくスケジュール化されていないことも問題である。この程度の改革だと、外為法の改正を機に、大量の資金が海外に流れる。

    3. 企業の資金調達が、銀行融資から資本市場での調達になるとのことだが、金融システムに対する不安が解消されないと、個人投資家は市場に近寄れない。

    4. これまで、痛みを伴う問題を先送りにしてきた。商法上、不良債権の償却は直ちに行なうことが原則だが、それを先送りすることを行政も容認してきた。金融法人も非金融法人もディスクロージャーを十分に行ない、市場に向き合った経営を行なう必要がある。
      金融サービス法については、モデルとなる法律が欧米にないこと、機関規制と商品規制の整合性をどうとるかなど難しい問題があること、そもそも商法の枠内で考えれば可能ではないかという議論があること、などを踏まえ検討する。

    5. 業態別子会社に対する業務制限の完全自由化前でも、本邦法人が外国の証券会社や銀行と業務提携をすることで、いち早く対応することは可能である。

    6. 公的金融システムの改革に手がつけられないままだと、個人の金融資産は郵貯に流れる。また個人の金融資産は海外にも流れるであろうが、その際、所得税上の国際的な整合性確保の問題も出てくる。

    7. 郵便貯金が政府保証であるというのなら、それに見合う対価(保証料)を預金者から徴収すべきである。その財源は、さまざまな施策に活用できる。
      個人の株式のキャピタルゲインと利子配当に係わる課税を見直す(総合課税化)必要は出てこよう。


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