経団連くりっぷ No.79 (1998年5月28日)

産業技術委員会知的財産問題部会(部会長 丸島儀一氏)/5月11日

WIPO新著作権条約の批准と一般的頒布権の導入について


WIPO(世界知的所有権機関)の新著作権条約において著作物一般に関する頒布権の導入が定められたことに伴い、同条約の批准のための国内法整備がWIPO加盟各国で進められている。わが国における対応については、著作権審議会第一小委員会で検討されている。そこで、産業技術委員会知的財産問題部会(部会長:丸島儀一キャノン専務取締役)では、文化庁の吉田著作権課長から標記テーマについて説明を聞くとともに懇談した。

  1. 吉田著作権課長説明概要
    1. WIPO新著作権条約
    2. 96年12月に採択されたWIPOの著作権条約および実演・レコード条約で、著作物等について「頒布権」(販売またはその他の所有権の移転により、原作品または複製物を公衆に利用可能にすることを許諾する排他的な権利)が規定された。現在のわが国著作権法は映画著作物についてのみ、第一頒布で消尽しない頒布権(再頒布についても権利者の許諾が必要)を認めている。
      新条約の批准にあたっては、著作権法を改正し、著作物一般について頒布権を認める規定を設けることが必要となる。

    3. 頒布権導入に伴い検討すべき論点
    4. 新しい条約で頒布権導入について規定されているが、その権利の消尽の条件については各国が自由に定めるとされている。
      権利の消尽については、第一頒布で権利が消尽することになる考え方が世界的に主流である。
      しかし、消尽の効果が及ぶ範囲をめぐっては2つの考え方がある。1つは、頒布された国内のみに限られるという考え方(国内消尽)であり、もう1つはどこか一国で頒布されると全世界で権利が消尽するという考え方(国際消尽)である。国内消尽に限定すれば、権利者は、著作物が外国で頒布されていても、当該著作物を権利者の国内で頒布する行為を差し止めることができる。これは頒布権の範囲を現在のわが国の慣行より広く認めることであり、権利者には有利になるが、著作物の自由・円滑な流通を阻害しかねないという問題がある。

    5. 各国法による頒布権の範囲
    6. 米国、イギリス、スイスでは国際消尽だが、米国では輸入権が別途定められている。 ECはディレクティブによって域内消尽が定められており、ドイツ・フランスはこれに倣っている。

  2. 意見交換
  3. 経団連側:
    一般的な頒布権導入についての国内でのニーズは高くない。頒布権導入に当たって、第一頒布で国際消尽することにすれば、現状とそれほど変わらないのか。

    文化庁側:
    変わらない。問題は、例えば中古販売等の再譲渡についても頒布権を行使したいというニーズがどれだけあるかだ。もう1つの問題は、映画等の著作物の頒布権の範囲を、他の著作物とのバランスをとりながらどこまで認めるかである。

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