経団連くりっぷ No.95 (1999年2月10日)

防衛生産委員会 佐藤防衛庁防衛局長との懇談会(座長 西岡総合部会長)/1月19日

わが国の防衛政策の課題について


防衛調達をめぐる事案に端を発した調達制度の改革や北朝鮮によるテポドン発射事件への対応等でわが国の安全保障環境が大きく揺れ動く中、昨年末に平成11年度防衛関係費が決定された。装備コストの低減目標の前倒しを伴った今回の予算編成や北朝鮮情勢に対応したわが国の防衛政策のあり方は、今後の防衛産業の生産・技術基盤に大きな影響を及ぼすと予想される。そこで、防衛生産委員会では、佐藤謙 防衛庁防衛局長を招き、政府予算案および今後の防衛政策の課題等について説明を聞いた。

  1. 平成11年度防衛関係費
  2. 概算要求においては、厳しい財政事情においても現行の中期防衛力整備計画の達成に影響が出ないよう、装備品のコスト低減努力等を盛り込みまとめた。しかし、その後にいろいろな問題が生じたため、取得改革や調達制度の改革へ対応しつつ、コスト低減努力をさらに加速することで、ようやく政府予算案を組むことができた。
    平成11年度防衛関係費は4兆9,201億円で、前年度に対して−0.2%の微減となっている。減少部分の多くは人件・糧食費の見直しや石油価格の下落等によるものであり、平成10年度第3次補正予算を15カ月予算として一体のものと考えれば、物件費についてはプラスとなっている。特に、為替レートが概算要求時に比して円高に振れて余裕のできた分については、歳出化経費の次年度への繰延べの解消に充当し、前年度と比較して約400億円繰延べ額を圧縮した。
    正面装備については、取得改革の推進によるコストの低減努力を盛り込むことにより、金額ベースでは減少となったが、数量的には中期防衛力整備計画をなんとか達成できる内容となった。
    このように厳しい予算の中でも、指揮・通信・情報については一層の充実を図ったところである。情報本部の情報関係の人員については、50名を超える人員増を行なう予定である。また、昨年8月の北朝鮮によるテポドンの発射に際して、イージス艦のレーダーで軌跡の把握に努めたこともあり、6カ所のレーダー・サイトにあるFPS−3レーダーにイージス艦のレーダーと同様な機能を付与するための改修を行なうほか、情報の即時伝達網の整備を推進する予定である。

  3. 弾道ミサイル防衛
  4. 弾道ミサイル防衛(BMD)については5年前に米国から提案があり、日米のスタディー・グループで検討を行なってきた。その結果、BMDシステムの実現のための技術的基盤ができつつあると判断し、共同技術研究の実施について政府として検討を行なってきた。昨年10月の安全保障会議の審議を経て、防衛庁として平成11年度予算の追加要求を実施した。また、予算内示前に関係閣僚の会議で方向づけをしてもらい、安全保障会議での了承を得て、政府予算案に盛り込んだ。その際、政府として議論を行なってきた宇宙の平和利用決議、武器輸出三原則等との関係についてどう考えるのかといった内容については、官房長官談話として公表されている。いずれにせよBMDは防衛政策上重要な課題であり、大量破壊兵器が拡散する中で、専守防衛をとっているわが国としては対処措置としてBMDを研究する必要があるということである。BMDについては、日本国民の生命と財産を守るという観点から国会で十分な議論を経れば、国民の理解が得られると思う。

  5. 情報収集衛星の導入
  6. 防衛庁では、以前から衛星を利用した情報収集に関心を持ち、商用の地球観測衛星のデータを購入し、軍事的観点から解析を行なうとともに、調査研究を行なってきた。冷戦後、米国は分解能1mの高分解能画像データの民間における利用を許可するようになった。防衛庁では、この高分解能画像データを活用し、併せて衛星データ画像の収集・処理・分析・配布を高度化するため、平成9年度に画像情報支援システム(IMSS)の整備に着手した。平成11年度末には、このシステムの部分運用を、平成12年度末には完全運用を行なう予定である。
    また、政府全体としては、昨年8月末のテポドン発射を契機に、日本として独自の情報収集衛星を持つことを決定している。この構想は、防衛、外交、災害対策、危機管理等を対象とした情報収集を目的とし、光学センサー衛星2機と合成開口レーダー衛星2機を平成14年度に打ち上げて運用するというものである。全体の事業規模としては2,000億円程度が見込まれ、現在、衛星打ち上げに関する研究のための予算が科学技術庁、通産省等に計上され、内閣情報調査室で全体のとりまとめを行なっている。防衛庁は外務省と並んでユーザの立場にあり、日本独自の衛星は情報ソースの多様化という観点から望ましいと考えている。

  7. 北朝鮮をめぐる情勢
  8. 昨年9月に金正日総書記が国防委員会委員長に再任され、北朝鮮はますます軍事へ傾斜していくと見られる。
    昨年8月の北朝鮮によるテポドンの発射は、弾道ミサイルの長射程化をにらんでの種々の技術的課題の検討等が主目的の弾道ミサイルの発射であった。北朝鮮では現在もミサイル関連の動きが見られるものの、テポドンの再発射が差し迫っているとは思われない。しかし、ノドン・ミサイルについては開発を終え、実戦配備されている可能性が高い。
    北朝鮮に関して新たな核施設疑惑が出ており、米朝間でその実態解明が懸案事項となっている。米国議会を中心に、これまでの北朝鮮政策を疑問視する意見もあり、ペリー前国防長官が政策調整官に任命され、現在の北朝鮮政策の包括的な再検討が始まっている。
    わが国はテポドン発射で一時中断していた朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)への資金協力を再開したが、今後はこのような事態を防ぐためにも日米韓の協力がますます重要となる。

  9. 日米防衛協力のための指針「ガイドライン」
  10. ガイドラインの実効性の確保はわが国の安全保障上必要であり、早く対応する必要がある。また、日米安保体制の効果的な運用や日米間の信頼といった観点からも問題であり、今通常国会での早期成立を実現したい。


くりっぷ No.95 目次日本語のホームページ