アメリカ委員会(委員長 槙原 稔氏)/1月22日
アメリカ委員会では米国を代表するエコノミストであるアレン・サイナイ氏より日本と米国経済の現状と今後の見通し、為替動向等について説明を聞くと共に意見交換した。
現在米国は、景気循環上、異例ともいえる時期にある。90年代に入ってから現在に至るまでの時期は、最長の、また構造的にも最もクリーンな景気拡大期といえる。現在の米国経済にマイナス要因は何も見当たらない。特記すべきなのはアジアから始まった金融危機が日本、ロシア、さらにラ米にまで拡大したにもかかわらず、98年の米国成長率が対前年でほぼ同等の伸びを示したことである。
しかしGDP成長率の根底にある分野別の動きを見ると98年米国経済には二面性が見られた。一方で輸出は弱く鉱業や製造業は苦境に陥った。99年もアジア、日本、ラ米、欧州の経済が引き続き弱い状況にあるため、米国の輸出は弱含みで推移するだろう。
他方、消費者支出は98年実質5%成長を示した。99年は米国の消費者支出の傾向値である3%位と少し弱くなるが、悪い状況ではない。資本財について言えば、情報技術、ハイテク関連はかなりよくなる。農業機械などの伝統的資本財や非住宅建設部門は弱含みで推移するだろう。消費者、住宅、情報技術、サービス関連は非常に堅調に推移している。日本やアジアへの旅行にも割安感が出てきたことから海外旅行も増えた。これらはすべて消費者が駆動する分野である。
アジア諸国の経済危機による世界経済への波及効果には以下がある。
第1は貿易の落ち込みである。アジア13カ国への輸出は米国の輸出の3分の1を占めていたため、アジアや日本の景気後退によって米国の輸出は8〜10%落ち込んだ。その結果、米国製造業は弱くなり、浅いリセッションとなった。
第2は、日本や韓国の経済悪化で世界需要の30%が消滅したことによる石油、商品価格の下落である。これは98年の米国経済の二面性を理解する上で重要である。石油価格は2年半程前の1バレル23ドル程度より現在は10〜11ドルに下がった。99年の世界経済の成長率は1.25%位と需要が弱いので石油価格が堅調に戻ることは期待できない。石油価格の下落は価格の連鎖に影響を与え、化学品、燃料、電力、ガス、プラスティック、包装材、肥料などの価格が低下した。こうしたエネルギー関連商品の価格低下は、米国消費者にとって大幅減税のように作用し、98年の消費拡大に繋がった。
日本やアジア経済は、今回の金融危機を乗り越えた結果より強靭性を持つようになった。アジア諸国ではインフレ率も下がり金利を下げる環境もでてきた。株式相場や国、企業の格付けもあがっていくだろう。
日本も最悪期は脱したと思う。ここ数年日本を観察してきてわかったことは、日本では速やかな政策決定ができないことである。しかし現在の世界の状況においてこれは良い結果をもたらさない。バブル崩壊後の日本の状況を見て、減税、金融緩和、円安が必要だと思った。また消費税引き上げは正しい選択ではなく財政刺激策が必要だと思った。今回の訪日中、大蔵省、日銀の政策担当者と意見交換したが、ようやく正しい方向性やリーダーシップが見えてきたと思う。大規模な景気刺激策はリスクは伴うものの必要であった。減税も有効であり、法人税、所得税の恒久減税の結果、タイム・ラグはあるだろうが最終的に消費は高まるはずである。銀行改革についても厳しい決定がなされた。これらの結果、日本の景気は回復すると確信を持っている。今年すぐには無理だろうが2000年、2001年位には回復するだろう。
通常、私はドルについて強気な見方をするが、日本経済が回復してくるので以前程強気でなくなった。為替モデルでは、政策面での改善は通貨上昇に繋がる。したがって、日本政府が正しい政策をとり始めたことやアジア経済の回復は円があがるのに役立つ。そのため日本企業はこれまで以上に質の高い製品を作り、競争力を高めなければならない。為替レートは今後、助けとはならないので、別の輸出戦略をとる必要がある。