経団連くりっぷ No.96 (1999年2月25日)

防衛生産委員会(司会 永松防衛生産委員会事務局長)/2月8日

米国の弾道ミサイル防衛プログラムの展望


米国のコーエン国防長官は、先般、北朝鮮のミサイル開発の脅威に対して弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)の開発促進のため、予算の大幅拡充と配備目標の前倒しの方針を発表した。また、日本政府も昨年、戦域ミサイル防衛(TMD:Theater Missile Defense)についての日米共同技術研究を行なうことを決定している。そこで、米国の防衛装備関係コンサルタントのパイパー・パシフィック・インターナショナル社のステファン・パイパー社長より、米国のBMDプログラムの現状と展望について聞いた。以下はその説明の概要である。

  1. 全米ミサイル防衛の推進
  2. 弾道ミサイル防衛(BMD)は、弾道ミサイルを迎撃ミサイルで破壊する構想で、米本土を守る全米ミサイル防衛(NMD:National Missile Defense)と海外の米軍部隊や同盟国を守る戦域ミサイル防衛(TMD)の二つの柱から成る。
    5年前に共和党がNMD構想を打ち出した時、クリントン大統領は2000年までの3年間で開発を行ない、配備の決定がなされた場合、2003年までに配備を完了する方針を打ち出していた。しかし、開発予算が十分に確保されていないことから、議会側はこのスケジュールに懸念を示していた。
    大統領は1月に発表した一般教書において、NMDの推進を表明し、それを受けてコーエン国防長官が2005年の完成を目標とする現実的な開発・配備スケジュールと来年度から5年間で66億ドルの研究・開発費を追加する方針を示した。
    NMDの開発推進の背景としては、昨年8月の北朝鮮によるテポドン・ミサイルの発射により、弾道ミサイルの脅威が実在するという認識が高まったこと、弾劾審議中に大統領側がNMDを推進する共和党保守系議員と対立したくなかったことがある。

  3. 戦域ミサイル防衛の再編と配備の前倒し
  4. 戦域ミサイル防衛(TMD)は、低層域防衛用として陸軍パトリオットPAC3、海軍イージス艦搭載の海軍地域防衛(NAD:Navy Area Defense)、欧州との共同開発による中距離拡大防空システム(MEADS:Medium Extended Air Defense System)の3システムがある。軍のニーズのないMEADSは中止される予定で、PAC3による代替が検討されている。PAC3は開発費の高騰が問題になっているが、NADは予定通り開発が進んでいる。
    高層域防衛用としては、陸軍の戦域高高度防衛(THAAD:Theater High Altitude Air Defense)と海軍戦域(NTW:Navy Theater Wide)システムの2システムがある。NTWの配備はまだ決定していないが、国防省は予算を拡充して開発を加速し、配備目標を2010年から2007年に繰り上げる方針を発表した。THAADは実験失敗が続いており、今後の5回の実験を踏まえ、2000年にその後の方針を決定する予定である。ただし、国防省はこの二つのプログラムを同時に継続することは難しいと考えており、2002年に一つに統合される可能性がある。


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