経団連くりっぷ No.97 (1999年3月11日)

今後の日米協力に関する部会(部会長 田口俊明氏)/2月19日

日米航空交渉と世界の航空提携の動向について聞く


今後の日米協力を考える部会では、日米交渉を中心に国際経済交渉において民間の果たす役割について検討している。その一環として日本航空の峯岸利延経営企画室国際提携グループ部長より、日米航空交渉における官民の役割や世界の航空提携の動向について説明を聞いた。

  1. 峯岸経営企画室部長説明要旨
    1. 米国型オープン・スカイ
    2. 米国政府は航空産業を基幹産業と位置づけ、航空産業を後押しするための明確な戦略を取っている。その具体例が、オープン・スカイである。オープン・スカイとは運賃、便数、路線、経由地を自由化することである。米国はオープン・スカイによって航空会社の自由度が向上すれば利用者の利便性も向上すると主張しているが、その背景には隠された側面もある。それらは第1に米国の国内法により外国企業の米国航空企業への投資が25%未満に制限されていること、第2に米国国内市場への参入も外国企業には認められていないこと、第3に米国政府の職員が官費で旅行する場合は米国航空会社を利用しなくてはならないというFly American政策が残されていることである。
      米国はすでに世界30カ国以上とオープン・スカイに合意している。米国とオープン・スカイに合意した場合のみ、その国の企業が米国企業との提携に際し、米国独占禁止法の適用免除が受けられる。その結果、運賃の共同設定、供給調整、収入プール、利益配分が可能となる。こうした行為が可能となることは米国企業にも外国企業にとっても意味が大きい。

    3. 日米航空協定
    4. 1952年の日米航空協定の下では、自由に参入できる企業数(インカンバント)は米国側2社、日本側1社とされ、さらに米国企業は日本を経由してアジアに無制限に乗り入れることができた。実際に、米国企業は週179便をアジア向けに運航しており、成田の発着枠の3割以上が米国の航空会社によって占められるという世界でも例のない状況となっていた。これに対して日本側はブラジル向けに週2便の権益しか認められておらず、179便対2便という大幅な不平等があった。先般の日米航空交渉では、日本側は先発企業を全日空を入れて2社とすることを目指し実現した。他方、米国側は当初はオープン・スカイを求めていたが、米国企業の中でも後発企業は実質的な日本への機会拡大を求めたため、最終的にはMOU(相互承認)キャリアを増やし日米間のフライトを週90便増やすことで合意した。不平等条約で一番問題だった以遠権については1998年の日米合意により、日本側2社にも米国側2社同様、無制限の以遠権が与えられた。しかしながら、日本の地勢的違い等から、米国側企業は日本の需要の集中する東京、大阪をハブとして、日本以遠を日本側企業並みに運航可能なのに対し、日本側企業は米国内には東京、大阪に匹敵するハブを持ち得ないことから、実質的な以遠権の不平等は解消されていない。
      また先般の日米航空交渉のもう一つのポイントは、米欧企業間で進んでいる提携の枠組みが日米間でも初めて設定されたことである。日米企業間では、現在、全日空とユナイテッドが、また99年5月からは日本航空とアメリカンが共同運航(コード・シェア)を行なう予定である。

    5. 国際提携の現状
    6. 現在、世界中で航空企業の提携は500以上あると言われており、この1年でも4割増えている。最近の特徴として資本出資を伴う提携の比率が減少していることが指摘される。これはルフトハンザとユナイテッドが提携した際、資本関係は結ばずにマーケッティングのみの提携とし、それがかなり成功を収めたことが契機となっている。最近の動きとして、航空企業間の提携が、グローバル・アライアンスと呼ばれるグループを中心とした提携として展開されていることがある。
      今後の動きとしては、第1に米国国内におけるメジャー企業間の提携があげられる。特にデルタの動きは影響が大きい。ユナイテッドとデルタ、アメリカンとU.S.エアウェイズ、ノースウエストとコンティネンタルの間でそれぞれ提携が進んでいる。デルタは欧州に大きな市場シェアを有しており、ユナイテッドの提携相手であるルフトハンザの競争相手でもある。そうした競争相手をユナイテッドが取り込んで提携関係を結ぶと、ルフトハンザとの利害がどうなっていくのか注目される。
      第2に米国政府や労働組合の動きも注目される。これまで、米国政府は企業提携は消費者利便を向上させるとして基本的に後押ししてきた。しかしごく最近の動きとしては、排他性を持つ企業間の提携は認めないという方針に変わりつつある。米国企業と外国企業との提携に対して、米国政府は、その外国企業がパートナーである米国企業以外の米国企業とは、同様の提携を行なわないというような排他的取決めを結んではならない、との条件を付するようになった。こうした各国の航空当局の動きに、今後注意を払わなくてはならない。日本政府も日本の航空企業が外国企業と提携する際は、排他性のあるものは認めないという通達を出している。

  2. 質疑応答
  3. 経団連側:
    米国はオープン・スカイを受け入れる代りにその国の企業と米国企業間の提携に対して独占禁止法の適用免除を行っているというが、もし日本や欧州の企業が提携した場合、日本やEUの独占禁止法との整合性はどうなるのか。

    峯岸部長:
    日米間ではオープン・スカイは認められていない。また日本の場合、航空法で航空企業間の取決めについては運輸大臣の認可を受ける必要があり、また公正取引委員会にも通知するので、運賃の共同設定、供給調整、収入プール等は原則として認められない。また欧州の場合は、現実的にルフトハンザ、スイス航空などが米国メジャー企業と提携しているのでそれぞれの国の現時点の法律では許されているが、ECはアメリカンと英国航空の提携についてさまざまな条件を出しているし、すでにある提携についても同様の条件を適用すると言っている。したがって、今まで認められていた提携が欧州側から一部認められなくなる可能性はある。


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