マスリュコフ・ロシア連邦第一副首相講演会(座長 安西邦夫日本ロシア経済委員長)/3月15日
日本ロシア経済委員会では、ロシア連邦のマスリュコフ第一副首相が、外務省賓客として3月14日〜17日の日程で来日した際、同第一副首相講演会を開催し、ロシア政府の経済政策、日ロ経済関係等につき考え方を聞いた。
ロシア経済と日ロ経済関係の停滞
ロシアの経済改革は期待されているテンポより遅れている。この数年の経済改革は、旧ソ連から受け継いだ経済分野の発展潜在力を大幅に低下させた。これに昨年8月の金融危機、エネルギーの国際価格暴落などが影響して、ロシア経済はかなり難しい状況にある。そのため日ロ経済交流も進展していない。
金融危機と国家の役割
ロシア金融危機は、金融部門のみならず貿易部門にも輸出入の減少、税収の激減などの影響を及ぼした。この経験は、経済分野には、国家規制が必要であることを示している。世界の経験を見ると、規制と経済発展の度合いは比例しているケースが多い。国家の役割の低下で構造改革も十分できなかった。このような状況を踏まえ、ロシアの議会と政府は日本との経済関係を重視している。
回復基調にあるロシア経済
生産分野はこの数カ月生産が上向きでそのテンポも加速しており、ルーブルの対米レートも安定的に推移している。今年の下半期は、原油生産・精製、ガス生産、冶金、化学、石油化学、機械生産、金属加工、食品、軽工業、繊維を中心に大きな伸びが期待される。これは、ロシア政府と中央銀行の企業に対する指導(債務債権関係の明確化、相殺と支払いに関する指導)の成果で、企業の決済・支払機能はほぼ復元された。今年度も引き続き必要な措置をとっていきたい。
ただし、食糧の60%は輸入されている。
また、農業機械の製造は、90年に実質的に停止したままで、農業生産者は必要な機材を購入できない。そこで、政府では、リースの活用による機械の供給を図っていく。日本をはじめとする外国企業の投資を期待している。
外国投資促進に向けた政策
ロシアへの投資促進のため、この4カ月間にPSA(生産物分与契約)法、外国投資法、二重課税防止法などを成立させたほか、日本の政策にヒントを受けてロシア開銀、投資保証庁や投資家擁護のための国家委員会を設置した。
日ロ経済協力関係
エリツィン橋本プランは、両国経済関係を方向づける重要なもので、引き続き推進していきたい。両国のマスコミは日ロ経済協力拡大について悲観的に報道しているが、具体的な成果を上げることが重要である。
日本とロシア極東との経済交流については、日ロ経済関係の全般の軸となっており、特にサハリンの石油ガスプロジェクトに期待している。この他、シベリア・ランド・ブリッジ、ザルビノなどのインフラ整備、企業育成などでの協力が期待される。このほか、経団連が中心となって極東諸州との間で検討している協力6案件(ガスパイプライン、水力発電、複合金属処理施設)を通して日本企業のノウハウを伝えてもらい、ロシアにおける経済システムの構築に寄与してほしい。
さらに、ロシアが潜在力を有する科学技術、研究分野で独創的な協力関係を模索できれば、両国経済交流もより飛躍的に発展するだろう。環境保護についても、大きな将来性がある。現在、環境関連の20案件について通産省と日本企業に対して積極的なコンタクトをとっている。環境保護プロジェクトに関しても、資金面と技術面を合わせて実現にもっていければ、相互信頼が高まる。
プロジェクト案件形成においてロシアの国内事情を憂慮して日本企業が躊躇するのは理解できる。しかし、この状況は一時的なもので、日ロ両国は協力していかなければならないのは事実である。日本には真に創造的なパートナーになってほしい。