海洋開発推進委員会 総合部会(部会長 橋口寛信氏)/4月28日
今般、産業技術力強化のための国家産業技術戦略の最終とりまとめがなされたが、海洋関連分野として、造船産業技術戦略等について東京大学大学院工学系研究科の宮田秀明教授より、水産産業技術戦略等について東京大学大学院総合文化研究科の高橋正征教授より説明をきいた。
今後の造船業の展開を図るうえで、ニーズに対応した戦略の構築が重要であり、今後、船ではなく、物流の側面に視点を向ける必要がある。したがって、海上物流産業として、社会のインフラ需要に応える形で船を設計、建造する必要がある。その際、情報工学の応用も不可欠である。
造船業は成熟産業であるが、再度その価値の高さ、および根幹産業としての重要性を認識すべきである。造船業は資本投下の時代が過ぎ、ボーダレス、アウトソーシング、ベンチャーの育成、技術コンサルティングの養成が重要になっている。
また、今後は、知的財産の保護と人材の育成も重要である。知的財産の保護とともに、職業能力を適切に評価すること等により、研究者にインセンティブを与える仕組みを構築する必要がある。
大学における知的研究と産業とのギャップを埋めることが必要である。その一つの手段として、産学を繋ぐ役割を果たすコンサルティング会社やナショナルプロジェクトの実行チームをつくる必要がある。現在でもそのような会社は多数存在するが成功例は少ない。
大手企業に発注し、中小企業が下請けする従来の造船業の産業構造は、改善の必要があろう。現在、中小企業の中には大企業との共同研究・開発を行なう動きはあるが、成功例は少ない。しかし、技術力、経営力があれば、技術の継承および発展は十分に可能である。
自動車産業は、従来の機械だけの一次元の時代から電気、情報を含めた3次元の時代に移行しており、現在では、他産業においても、N次元が要求されている。その意味で、自然科学のみでなく、経済、行政システムなど人文科学の領域も含めた理解、応用が求められている。
今後、デザインテクノロジーとテクノロジーマネジメントが重要であり、大学における対応が必要である。エンジニアは一つの分野ではなく、複数の専門領域をもつことで視野が広がり、デザインテクノロジーやテクノロジーマネジメント能力が養成されよう。
わが国の周辺水域は世界有数の漁場であるが、漁業生産量は近年減少が続き(平成10年約670万トン)、養殖業も頭打ち状態にある。また、漁村の高齢化が進み、漁業経営体数・就業者数も減少傾向にある。漁業は零細経営が大多数を占め、過剰投資も重なり、非常に苦しい経営状況にあり、急激な構造改革も難しい。漁場環境の悪化により、漁業資源の減少も顕著である。
一方で、消費面では、巨大なマーケット(平成10年度水産食品出荷額:4兆1,318億円)が存在する。しかし、輸入量の増大、国内需要の多様化等もあり、水産加工・流通業の収益性は低く、弱体化が目立っている。
水産技術については、開発のリスク、市場規模等の問題から、企業が技術開発に取り組むインセンティブが小さく、また、漁業に関する諸規制や技術革新を支える環境が未整備であり、革新的技術開発が起こり難い。そのため、企業における新たなニーズの開拓、政府における漁業管理制度の見直し、グローバルスタンダードへの対応等が必要である。
水産業の持続的発展のためには、水産資源の根本的な増大、資源の有効利用法の工夫、流通措置による水産業全体の在り方の工夫が必要である。
2010年度に約900万トンと推定される食用水産物需要に対応し、多様で良質・安全な水産物を安定的に供給し、自給率向上をはかるため、漁業・養殖業が資源の持続的利用をはかる新世紀型産業として熟成することを目指すべきである。
そのため、自然の仕組みを最大限活用した資源管理・増殖システムを確立するとともに、漁場や海洋環境を保全・修復するシステム技術を新たに創出することで、わが国周辺域の資源回復と持続的な最大漁獲を図ることが大切である。
具体的には、
現在、沿岸漁業等振興法の制定以来36年が経過し、経済社会の発展とともに、新たな問題が生じており、水産政策の全般的な見直しが必要となっている。昨年8月に水産基本政策検討会報告が公表されたが、今後、漁業基本法をはじめとする水産基本法制の確立に向けた検討を進めていく予定である。