経団連くりっぷ No.140 (2001年1月25日)

なびげーたー

急がれる金庫株の解禁

経済本部長 角田 博


自社株を保有し、これを企業組織再編、市場の安定、年金基金への拠出等に弾力的に使えるようにして欲しいという要望の実現を図る。

最近株価対策として経団連が主張している自社株の取得と「金庫株」としての保有の解禁が注目されている。これは株価の下支えに役立つが、経団連は金庫株の解禁を昭和40年代から求めてきており、最近の株価急落を見て急に言い出したものではない。

具体的にどう要望するかは現在検討中であるが、事務ベースでの検討では大きく三つに分かれ、

  1. 自己株取得の要件を緩和すること、
  2. 自己株式を保有できる期間、保有限度を拡大すること、
  3. 再発行の際の要件を緩和すること、
等が考えられる。

わが国の商法では、会社が自己株式を取得、保有すると、

  1. 資本維持の原則、
  2. 株式取引の公正性、
  3. 株主平等の原則、
等を阻害するとして原則禁止し、例外的に取得できるケースとして、
  1. 株式消却、
  2. ストックオプションの実施、
  3. 端株など株式買取請求に応ずる場合、
等6項目を限定列挙している。そして各ケースごとに保有期間の制限や処分義務を課している。ストックオプションでは権利行使期間(最長10年)中保有できる。消却の場合は「速やかに」、その他は「相当の時期に」処分しなければならない。また、企業組織再編で親会社が子会社株を保有した場合は自己株保有が禁止されているのと同様の考え方から、年度を超えて保有できないという運用がなされており、年度末の株価に大きな影響を与える可能性がある。

海外の事例を見ると、米国のデラウェアやニューヨーク州などの会社法では金庫株として目的を問わず保有し取締役会決議で自由に処分できる。デラウェア州法で設立された米企業は4割であり、米国の過半の企業が自由に保有している。GEは常に10%程度保有し、年金目的などに活用しているという。

欧州では、日本と同様原則禁止であるが、例外事項に敵対的買収に対抗する場合(独)や相場調整(独、仏)が認められるなど、日本よりも幅広く容認されている。なお保有限度は、独、仏では、発行済株式総数の10%まで認められている。財源規制について日欧は配当可能利益の範囲内であるが、米では剰余金(純資産−資本金額)であり範囲が広くなっている。

株価低迷で日本企業がM&Aの対象にされる危険性が増えており、この際取得目的を限定せず、

  1. 敵対的買収に対抗する場合、
  2. 企業組織再編、
  3. 市場の安定、
  4. 年金基金への拠出、
等にも対応するとともに、保有期間、保有限度の拡大を図り、企業が経営の手段として自社株を保有し弾力的に活用できるようにする必要がある。あわせて、株価操縦とみなされないよう投資家への積極的開示を行うとともに、インサイダー規制、セーフ・ハーバー・ルール等の整備を行うことが求められる。


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