環境安全委員会(共同委員長 山本一元氏)/2月21日
イアン・ジョンソン世界銀行副総裁ならびにロバート・ワトソン世界銀行首席科学者・IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)議長の来日の機会を捉え、世界銀行の温暖化問題への取組みとIPCCが本年秋にもとりまとめる第3次評価報告書案について説明をきいた。
世界銀行では、気候変動枠組条約定採択前から、GEF(Global Environment Facility:地球環境ファシリティー)が、気候変動問題に対応するものとして有効であるか否かを検証するために、これを試験的に実施するなど、本問題には関心を持って取り組んできた。気候変動は、貧しい国々を現状より一層脆弱な状態に追いやることから、世銀としては、気候変動の影響についての知見を深め、本問題に積極的に取り組んでいかねばならないと考えている。
COP6交渉決裂は、多くの人々を失望させた。しかしながら、各国が、気候変動について対策を講じる必要がある問題との認識をもつにいたった点で大きな前進があったものと理解している。
現在、世界では、13億人が、一日1ドル以下の生活を強いられ、8億人が十分な食事を採れず、13億人が清潔な水を手に入れられない状態にある。このような状況を克服し、持続可能な開発を向けた取組みを進めるにあたり、気候変動の影響が大きな障害になるおそれがある。
気候変動の原因として、
IPCCの第3次評価報告書は、過去5年の間に蓄積された情報をとりまとめるもので、気候変動の影響について社会的、技術的、社会的な観点から包括的に評価した。その特徴としては、気候変動の影響をセクター別、地域別に分析した点にある。
第3次評価報告書は、気候変動を科学的側面から評価した第1作業部会報告、気候変動の影響および適応策を社会・経済的側面 から評価した第2作業部会報告、気候変動の緩和策を社会・経済的側面 から評価した第3作業部会報告の3つのパートから構成されている。第1、第2作業部会報告は、すでに採択されており、第3作業作業部会報告は、今年3月にも採択される見込みである。最終的な報告は、今年の9月に公表される予定である。
第1作業部会報告は、
われわれは、短期的には、京都議定書の目標の達成を、長期的には、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させるためのシステムの確立を実現していかねばならない。京都議定書の目標を達成するためには、OECD諸国は、エネルギーに関する慣行を大きく変える必要がある。また、2100年時点で、550PPM濃度に抑えることを考えた場合、途上国においても今からエネルギー政策の転換、新技術の導入を開始する必要がある。
CO2削減に向けた施策として、供給サイドにおいては、エネルギー転換、発電効率の向上、再生可能エネルギーの活用、原子力の活用などが考えられる。需要サイドでは、商業用あるいは居住用建物のエネルギー効率の改善などが考えられる。社会制度としては、エネルギー価格調整や税の活用、社会的コストの内部化、排出量取引、エネルギー利用効率の標準化等がある。この他、政府・民間ともに研究開発に力を入れる必要がある。日本は、原子力中心に研究開発が行われたが、今後は、再生可能エネルギーへの投資も必要である。
対策を進めるにあたっては、地域の環境問題、開発問題ならびに地球環境問題をにらみ、双方の解決に結び付けていく点に留意する必要がある。例えば、地域的な酸性雨の問題と地球温暖化の問題といった複数の問題に着眼した技術や実践、政策を進めていくことが求められる。
世銀は、温室効果ガス削減のための事業、気候変動に対応した事業ならびに人材育成事業をバランスよく進める方針である。温室効果ガス削減目的の事業としては、市場を活かした制度改革、GEFによるエネルギー利用効率の向上、新エネルギー技術の計画的な導入、途上国のCDMへの参加を促すための施策を進める計画である。また、気候変動問題に配慮した形でのプロジェクト立案、気候変動への対応能力を向上させるための人材育成プログラムを進める考えである。